2月16日、NHLは今シーズンの全試合中止を発表した。焦燥感の中でリーグと選手会の妥協が成立するのでは、との希望的観測も流れていたが、争点であるサラリーキャップの金額面のギャップは予想以上に大きかった。19日、再度の交渉が延々6時間半にわたって行われたが、解決の兆しさえ見えない。NHLは死に絶えるのだろうか。 アメリカ(北米)の4大プロスポーツの一つに数えられてきたNHLだが、現実にはNFL、NBA、MLBとの差は大きい。昨シーズン、全30チーム平均で909万ドル(約9億5000万円)の赤字を計上したが、その最大の要因が総収益の75%に相当する選手の年俸である。このままでは多くのチームが経営破綻に陥るとの危機感を覚えた経営側は、CBAと呼ばれる労使協約の改定交渉の中でサラリーキャップ制の導入を図ろうとした。制度の受け入れには選手会も合意したが、金額面では折り合わなかった。 高額の年俸でも相応の収益が上がっていれば赤字にはならない。しかしながら昨シーズンまでの9年間、平均年俸が261%上昇したにもかかわらず、チームの収入は173%の増加にとどまった。これは何故なのか。1993/94年シーズン当時29.75ドルだったチケットの平均価格は、昨シーズン48.37ドルになったが、それに比べてチケット1枚あたりの選手のコストは21.01ドルから74.35ドルと大きく乖離してしまった。言い換えれば、ファン視点でのNHLの価値は、プレーする選手の金銭価値の上昇ほどには創出されなかったということだ。またこれを補完するテレビ価値の創出もなされなかった。キャンセルになった今シーズンの放映権を取得していたのはESPNだ。権料は6000万ドル。前シーズンのESPNとABCによる1億2000万ドルの半分にすぎない。そして、その金額でさえMLBの放映権料の3割にも満たないのだ。ESPNの前シーズンの平均世帯視聴率はたった0.2%。皮肉なことに今シーズンNHLの代替コンテンツとして放送された大学バスケットボールの視聴率(0.4%)のほうが「まし」だったのだ。 NHLはテレビコンテンツとしての魅力に欠けると烙印を押されている。工夫も足りないと言われる。アナハイム・マイティダックスを経営するディズニーのマイケル・アイスナー会長は、ベンチに座っている選手はヘルメットを脱いで顔を見せるべきだ、と言う。FOXテレビがMLBのプレーオフで実現し話題となったヤンキーズのジョー・トーレ監督への試合中のインタビューのように、テレビ・フレンドリーなチームそして選手の姿勢が不可欠だ。 エンタテインメント価値の創造によりコスト圧縮の効果をさらに高めていこうという姿勢は垣間見える。しかしながら一旦冷めてしまったファンの思いがそう簡単に戻るだろうか。解決への道は遠く、来シーズン「氷上の格闘技」が北米で再登場する可能性は極めて厳しいといわざるを得ない。 |