スポーツマーケティングの出発点は政府、行政による地域の活性化。国家や都市のセールスである。その典型はオリンピック大会の誘致だ。 1936年のベルリンオリンピックは、台頭するナチスドイツによって「平和的アピールの場」に利用された。1964年の東京オリンピックは戦後の復興を成し遂げた日本が、世界に対して技術力と組織力を実証するショーケースとして大いに機能した。 3年後に迫った2008年の北京オリンピックを現代中国による経済、政治のデモンストレーションだと捉えない人はまずいない。中国はオリンピックを通じてありとあらゆる国家のマーケティングを試みようとするだろう。 オリンピック誘致の本質は行政が率先して行うイベントをステージとしたマーケティングだから、開催環境の整備、改善こそが大会の価値向上の鍵だ。しかし北京の当事者たちは、開催自体を確実にアピールすることのほうに関心がありそうだ。 現在、北京市はオリンピックをプロモートするために、新たなスポーツマーケティングの展開を真剣に検討しているらしい。 ターゲットにしているのはサッカーのユニフォームスポンサー。選手の胸には「Beijing 2008」が表示される。ワールドクラスのクラブであれば露出効果は高く、話題性にも事欠かない。 例えば、マンチェスター・ユナイテッドのボーダフォン、レアル・マドリードのシーメンス、ACミランのオペル、等々。英国のコンサルティング会社、デロイト・アンド・トウシュが分析したサッカー長者番付の上位クラブは、ユニフォームスポンサーのアピアランスも印象的だ。直近では、サムソンがプレミアリーグで50年ぶりに優勝したチェルシーと5000万ポンド(約100億円)で5年間の契約を交わして話題になった。ノキア、シーメンスとの激烈な条件闘争を制した、と伝えられている。 有力クラブがいわゆるブルーチップ企業と長期契約をしている中で、北京市を受け入れてくれそうなクラブはあるのだろうか? 候補に挙がっているのはリーガ・エスパニョーラの優勝に大手を掛けたクラブ。FIFA最優秀プレーヤーに選出されたロナウジーニョを擁するFCバルセロナである。 FCバルサはユニフォームスポンサーを採ってこなかったことで知られている。しかしながらここ半年以上、方針転換の噂がたびたび浮上しては消えた。今回はどうも可能性がかなり高そうだ。 バルサはホアン・ラポルタ会長を含むクラブの幹部が先週中国を訪れ、スポンサー候補(名は明かされていない)とかなり突っ込んだ交渉を重ねたことを認めている。一説に5年間、1億ユーロ(約136億円)と言われているディールの発表には至っていないが、来月に予定されている日本ツアーまでには決着し、横浜や埼玉のピッチ上には新しいユニフォームを身に着けた選手が登場するかもしれないのだ。 北京オリンピックまで3年。ワールドワイドパートナーを始めとする協賛企業各社は大会の魅力を評価して、マーケティング展開を行おうと高額のスポンサーシップ料を支払ってきた。ところが、肝心の権利主体が資金の一部を投じ、まったく別のスポーツプロパティのパワーを借りて価値創造を行おうと考えているとしたら、これはかなりアイロニカルな話だ。 |