ロゴやカラースキーム、シンボルパターン等、ビジュアル・アイデンティティ(VI)は企業のブランディングとは切っても切れない関係にある。 スポーツマーケティングの実施において、VIは極めて重要な要素だ。 企業が期待するのはスポーツの感動とともに自社に対する好感度を醸成すること。「価値の移転」を実現したい。しかしながらスポーツ自体はアクションであり、どのような企業メッセージをかぶせようとしても、リアルタイムに生活者に伝達するのは至難の業だ。テレビ視聴者とて、CMタイムにはトイレに駆け込むし、フィールド上に整然と置かれたスポンサー看板がいくら芸術的にデザインされていても、観客が積極的に注目してくれることなど期待できるわけがない。 フェンス広告、回転式ボード、フィールド上のペイント、といったスペースの利用は「スポンサーメリット」として一般的だ。もちろんスポーツシーンの背景として視覚に捉えられることを意図して設置される。一方、ゼッケン、ヘルメット、ユニフォームといったパーソナルなアイテムも評価が高い。選手自身が身につけることで、VIはアクションと一体となるからだ。 これはスポーツ用品メーカーにとってはことさらに重要なことだ。有力な選手、チームに採用されたウェア、シューズ、エクイップメントは信頼性の証。他ブランドとの差別化をストレートに訴求する。 かなりの距離をおいても「それと判る」ユニフォーム・デザインといえば、アディダスの3本線だろう。アディダスのストライプには40余年の歴史がある。時代により、スポーツにより、そのプロポーションを変え、様々に変化してきたがスポーツファンには一目瞭然。圧倒的なメッセージパワーを有している。 昨年の秋、ライバルであるナイキ、プーマ、リーボックは連名でIOCに対して意見書を提出した。「長年に亘って見過ごされてきた不公平なルールの解釈」に異議を申し立てたのだ。 3社の主張はこうだ。「アディダスの3本のストライプは明らかに同社のVIである。にもかかわらず、規定サイズを明らかに逸脱しているではないか。」オリンピック種目の場合、選手のウェア上に表示されるブランドロゴが一定のサイズを超えないことを製造メーカーに義務付けているからだ。 IOCは約6ヶ月の検討の末、異議を認める判断を下して先日各社宛に文書を送付した。次期オリンピックのトリノ冬季大会から、製造メーカーにユニフォーム上のブランド表示サイズの上限である20平方センチの厳守を求める内容である。 20平方センチのルール自体は新しいものではない。厳格に、という文脈でアディダスの3本線にノーの立場を表明したのだ。この決定に勢いづいたナイキ、プーマ、リーボックはFIFA、IAAF、IRB等の国際スポーツ連盟に対してもIOCの方針に沿うようロビー活動を開始した。 中でもナイキは、テニスで自社の契約選手に規定より大きいスウォッシュ・マークがついたウェアをあえて着用させ、意図的に論議を拡大している。 ワールドカップやオリンピックを軸として、アディダスのマーケティングはオフィシャル・ステイタスをバックにしたウェア提供をベースに拡大してきている。以前にも論じたように、その投資金額は巨大だ。もしも、今後オリンピック以外のメジャーな国際スポーツイベントでもルールの見直しが行われ、ユニフォームから3本線が消滅するような事態になれば、アディダスが目論んだマーケティング・バリューは著しく減衰することになる。 グローバルなスポーツマーケットが成長すればする程、スポーツ用品メーカーどうしの水面下での駆け引きは、一層熾烈になってゆきそうだ。 |