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第117回次IOC総会 ニューヨークの応援、イアン・ソープ(左)
(C)photo kishimoto

 
第117回次IOC総会
ニューヨークの応援で
会場入り口に向かう、
イアン・ソープ(左)

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vol.258-1(2005年 7月 6日発行)
佐藤 次郎/スポーツライター

スターとしての覚悟


杉山 茂/スポーツプロデューサー
  〜FIFA、ワールドカップ放送権に“新たな計算”〜
岡崎 満義/ジャーナリスト
  〜スポーツノンフィクションのむずかしさ〜


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スターとしての覚悟
佐藤 次郎/スポーツライター)

 谷亮子の記者会見は真新しいホテルの大きなホールで行われた。テレビカメラはおよそ30台にも達していたようだ。ひとつの局からいくつものクルーが出たのだろう。広い会場はもちろんぎっしりと埋まっていた。

 妊娠のために、7連覇のかかる世界柔道選手権出場を辞退するという内容だった。おそらく、集まった報道陣の誰もが、まるで人気芸能人の会見のようだと思ったに違いない。こぼれんばかりの笑顔をふりまく女性司会者。まばゆいライトに照らされる出席者の席。谷自身もシックなドレスに身を包んでいた。つまりは、およそスポーツ選手の記者会見とは思えない雰囲気と舞台だったのだ。

 だが、あまり反発は感じなかった。おそらく、他の人気競技者がこんな会見を開いていれば、会場に入るなり、こう呟いていたことだろう。「おいおい、いい加減にしてくれよ」。しかし、彼女がこの内容で会見を開くのなら、それもまたよしと私は思ったのである。

 この国民的人気者が、プロ野球のスタープレーヤーとの間に子どもを授かって、しかもそれによって世界選手権の連覇への挑戦を中断するとなれば、めったにない大きな話題になるのは避けられない。ならば、いずれにしろ会見はした方がいい。それに、いかにも派手な舞台にあまり反発を感じなかった理由はもうひとつある。谷亮子という人物には「スーパースターであることの覚悟」があるように思えたのだ。

 若くしてトップ選手になって以来、彼女は常に柔道やスポーツといった枠を超えた存在であり続けてきた。その中で、この小柄な女性はしだいに、事実上のプロのアスリートとしての、あるいは超人気スターとしての、また柔道界を牽引するエースとしての自覚と覚悟を抱き、磨いていったのだと思われる。自分がめったにないほど幅広い人気を持っていること。スーパースターとしての扱いをさまざまな面で受けていること。そうした立場にいるのであれば、それにふさわしい行動をとらねばならないと彼女は思っているに違いない。そこで、過剰なまでの注目を浴びるのも、私生活にわたることを派手な会見で語るのも、ある意味で自らの義務だと認識しているのではないか。

 記者会見では落ち着いて折り目正しい口調や過不足のないコメントの内容、にこやかな表情などが印象的だった。それもまた「スターの自覚と覚悟」がなせる業だろう。だからこそ、この華美な会見もそれほど違和感なく見えたのではないかと私は思ったのだった。

 彼女は出産後の復帰も宣言し、「田村で金、谷で金、ママでも金」というおなじみのスローガンを繰り返し語った。おそらく彼女はやり遂げるだろう。スーパースターとしての覚悟が、彼女をそうさせずにはいられないからだ。


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