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vol.269-2(2005年 9月22日発行)
滝口 隆司/毎日新聞運動部

「欧州サッカー式」を目指すプロ野球選手会の改革案


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「欧州サッカー式」を目指すプロ野球選手会の改革案
滝口 隆司/毎日新聞運動部)

 近鉄・オリックスの合併に端を発したプロ野球のストライキから1年が過ぎた。日本プロ野球組織(NPB)と選手会はこれまで構造改革協議会を通じ、今後のプロ野球像を話し合ってきたが、このほど、選手会が発表した「日本プロ野球構造改革案」は、今後のプロスポーツを考える上でも非常に興味深い。「戦力均衡」の思想を否定し、経営者側に同調するかのように「自由競争」を標ぼうしたからだ。

 改革案の総論を要約するとこうなる。

 「(アメフットの)NFL式共産主義=徹底した戦力均衡主義=では、基盤の弱いチームの状況に合わせた均一化が行われ、MLB(米大リーグ)との格差は拡大する。NFLは外部リーグとの選手獲得競争がないので、NPBとは状況が異なる」

 「欧州サッカー式BIGクラブ政策=自由競争の採用=をとり、複数のBIGクラブが中小クラブを牽引することによってリーグを拡大化し、MLBに対抗する」

 ところが、1年前、選手会は戦力均衡の重要性を唱えていた。古田敦也会長は「合理的戦力均衡策への私案」と題し、
 ・ドラフト完全ウェーバー制導入
 ・放映権料の一括管理分配の実現
 ・中堅選手へのFA資格の大幅拡大
 ・FAの補償金の撤廃
 ・ぜいたく税導入
 ・レンタル移籍制度の導入
 ・新規参入球団の際のエクスパンションドラフトの制度化
 などを掲げていた。「古田私案」と銘打っているとはいえ、これは当時の選手会の考えを代弁したものといっていい。

 では、逆に自由競争を進めることで何が起きるのか。欧州サッカー界ではEU統合に伴うEU内での労働市場の自由化によって、選手の移籍も自由になった。その結果、年俸の高騰に歯止めがかからなくなり、イタリア・セリエAでは経営破たんに追い込まれるクラブも現れた。それでも各クラブは借金を背負いながら、選手の売り買いを続けた。チームの弱体化はさらなるクラブ経営の悪化を招くからだ。

 こうして欧州サッカーは巨大ビジネスに発展しながらも、クラブ財政がいっこうに好転しない構造の中で動いてきた。財政的に収入源の少ない中小クラブは、ビッグクラブに選手を売ることが最大のビジネスになった。若い選手が育てば、すぐに高額で売りに出す。育てるどころか、アフリカや東欧のクラブから安い選手を買ってきて、素早く「横流し」するクラブも少なくない。そうしなければ、欧州サッカー界では生き残っていけない。ビッグクラブも中小クラブも、不安定な財政基盤の上で自由競争を続けているのが現状だ。

 そんなことは当然、選手会のブレーンは分かっているはずだ。ビッグクラブ主導となれば、将来はまた1リーグ制導入の動きが再燃するに違いない。その時、自由競争を掲げる選手会は昨年のようにストライキを打てるのか。

 選手会が昨年の主張通り「戦力均衡」を求め続けていけば、それは将来的にサラリーキャップ制の導入など年俸抑制につながってくる。だから、「自由競争」と叫び始めたのではないか。ストから1年、選手会の軸はぶれ始めてきたように見える。


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