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vol.279-2(2005年12月 2日発行)
滝口 隆司/毎日新聞運動部記者

国歌演奏について考える


岡 邦行/ルポライター
  〜ジャンボ尾崎の“復活”を願う〜
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国歌演奏について考える
滝口 隆司/毎日新聞運動部記者)

 国際サッカー連盟(FIFA)のブラッター会長が、試合前に行う国歌演奏の中止を検討したい、とスイス誌に語ったことが話題になっている。FIFAの広報担当者は会長の「私的な意見」と説明しており、現実味はなさそうだが、スポーツと国家、ナショナリズムを考える問い掛けととらえたい。

 ブラッター会長は、11月16日にトルコ・イスタンブールで行われたワールドカップ(W杯)プレ―オフ、トルコ・スイス戦で、スイス国歌が演奏された際に観客が野次を飛ばしたことを問題視しているという。

 「無礼で国家を中傷するものだ。今後も国歌演奏を続けるべきかどうか、疑問に思う」というのがブラッター会長の発言だ。

 この試合はW杯出場権をかけた第2戦だった。第1戦でスイスが勝ち、第2戦でトルコが勝利を収めたが、アウェーでのゴール数の多いスイスがW杯出場権を獲得した。スイス・ベルンでの第1戦ではトルコ国歌に対して観客からブーイングが起きたという伏線もあった。第2戦の試合後には、ロッカールームに向かう通路で両チームによる乱闘事件も発生している。

 W杯の歴史上、有名な「サッカー戦争」の現地に出向いて取材したことがある。1969年、W杯の北中米・カリブ海予選で対戦したエルサルバドルとホンジュラスが、試合をきっかけに本当の戦争を始めたという話だ。

 実際にはエルサルバドル人のホンジュラスへの不法移住問題に戦争の原因があったのだが、緊張した両国の関係にサッカーが火をつけたことも否定できない。当時のホンジュラス代表選手に話を聞くと、選手たちは軍用機で国境を越え、装甲車で試合会場入りする物々しさだったという。

 エルサルバドルでの試合では、ボロぞうきんのようなホンジュラス国旗が掲げられた上、国歌演奏も妨害され、試合後はホンジュラスのサポーターへも暴行や投石が繰り返された。逆にホンジュラスでの試合ではエルサルバドル代表へ同様の嫌がらせが続いた。そうした騒ぎが商店の焼き討ちなどにエスカレートし、ついには戦争に発展してしまったのだ。

 日本も他人事とはいえない。昨年8月に中国で行われたアジアカップで、反日感情の強い中国人サポーターが日本の国旗を燃やしたり、国歌演奏時にブーイングを浴びせたりしたのは記憶に新しい。「スポーツと政治は別」と一般の人は理解していても、時としてスポーツが異様な力を持って政治的行動と結びつくことがある。

 試合前の国歌演奏はセレモニーの一つである。しかし、われわれの座る記者席でも反応はさまざまだ。観客とともに起立して両国国歌を聞き入る者もいれば、無関心なのか、無視しているのか、座ったままの記者もいる。なぜ国歌が必要なのか。それをブラッター会長も自問しているのだろう。同じ問いを自分に投げ掛ければ、私は「これは国際試合を戦う選手たちに対して敬意を表すものだ」と言った先輩記者の言葉を思い出す。


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