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vol.331-3(2006年12月15日発行)
葉山 洋 /マーケティング・コンサルタント

「フェアプレーは何処へ」
  〜今年を振り返る@〜

 スポーツの「当たり年」だった2006年も終わろうとしている。トリノ冬季五輪に始まりドーハ・アジア大会で締めくくられる今年のスポーツイベントの代表格は、やはりFIFAワールドカップだろう。335万人以上にのぼるスタジアム入場者も凄いが、207カ国で320億人(累積)とされるテレビ視聴のインパクトは絶大だ。特にイタリアvsフランスの決勝戦は15億人以上がテレビ観戦をしたとされ、地球人口のほぼ4分の1(!)が同時に「前のめり」になっていた勘定になる。

 放送権、マーケティング、チケットの販売合計は約3,100億円にも達し、大会運営費を差し引いても1,670億円もの剰余金をFIFAにもたらした。エンターテインメント・コンテンツとしてのW杯の商業的バリューが見事に裏付けられたのだ。

 2010年の南ア大会に向けてFIFAはますます強気だった。インターネットやモバイル等メディアがいかに進歩しても、魅力あるコンテンツが受発信されなければ所詮テクノロジーは虚しいものだ。グローバルに人々の興味を喚起することが確実なW杯だからこそ、メディアも企業も真剣になる。その恩恵に浴するために必死になる。2014年大会までをパッケージにした300億円を優に超す協賛金にもかかわらずアディダス、コカコーラ、エミレーツ航空、現代自動車、ソニーがつぎつぎとスポンサー契約を締結。コミュニケーション・プラットフォームとしての評価が揺るぎないことを示した。

 そんな中で不可解なことが起きた。4月のはじめであった。求人情報サイト・スポーツバンクの「スポーツ・ビジネス・ジャーナル(会員専用メールマガジン)」には当時2回にわたって書いたが、クレジットカードのVISAが永年協賛を続けてきたマスターカードに代わって次期パッケージの公式スポンサーに決定したと発表したのだ。マスターカードに限って降りることは「あり得ない」と思うと同時に、FIFAが公式発表しないことに「なにか裏がありそうだ」と感じ、その後も注視していた。すると12月に入り、4月に裁判を起こしたマスターカードの異議申し立てが認められ、FIFAが敗訴するという文字通り前代未聞の展開をみせた。

 VISAとの契約は無効になり、マスターカードとの再交渉を余儀なくされたFIFAはマーケティング責任者のジェローム・バルケ(仏・ヴィヴェンディの出身)ほか4人を即刻解雇。クリスマスを前にチューリッヒの本部は大騒ぎである。築き上げてきたFIFAのレピュテーション(社会的評判)は著しく毀損されてしまった。スポンサーの優先権をないがしろにし、二枚舌の交渉を進めたというのだからたちが悪い。

 グローバルスポーツであるサッカーの普及と並行して、貧困、人権、環境など地球規模の問題へも積極的に関与し、ブランド価値を高めてきたFIFAだが、そのような貢献が可能なのも企業からの経済的支援があってのものだ。それを忘れて自信過剰に陥り、FIFAが自ら掲げるフェアプレー精神とは程遠い不誠実なマネーのゲームに酔っていたのだろうか。このおごり高ぶりのツケは、あまりにも大きなものになるだろう。

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