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第8回長野オリンピック記念長野マラソン大会 男子 1位 ネファト キニャンジュ (ケニア)


(C)photo kishimoto


第8回長野オリンピック記念
長野マラソン大会
男子 1位
ネファト キニャンジュ(ケニア)

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vol.298-1(2006年 4月19日発行)
岡崎 満義/ジャーナリスト

金本の言葉、桑田の言葉

松原 明/東京中日スポーツ報道部
  〜「レッドソックスの改革」〜
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金本の言葉、桑田の言葉
岡崎 満義/ジャーナリスト)

 阪神の金本知憲外野手(38)が、4月9日の横浜戦で、連続フルイニング出場を904試合に伸ばした。この世界新記録はおみごと!というしかない。信じられないようなとてつもない記録である。'99年、広島に在籍していたときの7月21日の阪神戦からスタートし、合計イニングは8304、驚くばかりだ。(連続試合出場も1049に伸ばしている。)どこまで記録を伸ばすのか。本人は「1500試合を目指したい」と、高い目標を見すえている。左手を骨折しながら出場し、右手1本でヒットを打った超のつく鉄人のことだから、あるいはその目標もクリアするかもしれない。

 試合後のインタビューで、休まない秘訣は?と問われて金本選手が「仕事への責任感、強い思いがどれだけあるか。でも息抜きも必要。一般の人も有給休暇は有効に使ってほしい」(朝日新聞4月10日付)と話しているのが面白かった。単に休め、というのではなく、「有給休暇」を使え、というアドバイスに、金本選手の人柄があらわれているような気がする。

 休むことの必要性は、誰でも頭では理解している。しかし、実際には十分に休むことはまずない。休んでいると、遅れをとる、という気分になって、ついつい働いてしまうのがフツーのサラリーマンだ。休むことに何かうしろめたさを感じるのは、勤勉を第一の美徳としてきた日本人のDNAのなせるわざだろうか。

 休むことはマイナスではない。潜在的なプラスである。と納得して生活できるようになってこそプロフェッショナルだ、と金本選手は言っているようにみえる。

 それから4日後、巨人の桑田真澄投手が600日ぶりに勝ち投手になった。この忍耐もスゴイ。桑田選手のコメントが印象に残った。「長かった。勝てなくなって、今まで経験したことがないほど、みんなに励まされてきた。生きてるというより、生かされてるんですよね」(朝日新聞4月14日付)

 野球にかぎらず、どのスポーツでもまず要求されるのは「やる気」である。自らの意志で、能動的に立ち向かっていかなくてはならない。主体性がないかぎり、進歩はない。自分の意欲をどう高めていくか、である。

 桑田投手ももちろん、能動的に、主体的に強い意欲をもちつづけて、現在があるのはまちがいない。プロ野球21年目の桑田投手は、その間、右ひじの手術でシーズンを棒にふったこともあった。困難を乗り越え、さまざまな工夫をこらして、人一倍の努力の末、ここまで歩いてきた。

 そして、能動的な境地のいきつくところ、「生きてるというより、生かされてる」という、いわば受身の感覚が生まれたように見えるのが、何ともいえず面白い。一流選手の心技体の感覚は、強い自己執着からスタートして、いつか、知らないうちに自己を超えるところまで突き抜けてしまうのかもしれない。ある種の開放感。多分、それは特別に選ばれた者だけに与えられる、天の恵みのようなものだろう。

 桑田投手は「今年は全員で野球をやってる感覚がある。それがたまらなくいいんです」とも語っている。受身の感覚は、他人との一体感にも通ずるものだろう。自己の殻がほろほろとはがれていく。それだけ、他人を受け入れやすくなる。それは「大いなる受身」と名付けたいような感覚である。この感覚を自覚した桑田投手がこの先、どんな新しい姿を見せてくれるか、楽しみになってきた。

 30代後半の金本、桑田の両選手には益々注目したい。どのような円熟ぶりを見せてくれるだろうか。


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