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vol.311-1(2006年 7月25日発行)
岡崎 満義 /ジャーナリスト
「ジダンの頭突き」考―その2

 早速、ジダンの頭突きが俳句になった。7月24日付朝日新聞の読者投稿俳句欄。
・七夕やジダンの頭突き吾にもあり

 という高岡市野尻徹治さんの句だ。選者の金子兜太さんの評は「率直で小気味よし。同感と受け取る人も多いはず」とあった。オシム新日本代表監督が「代表を日本化する」といったのは、こういう日本人の心のあり方、心の表現技術を、どんな現象でも17字でまとめあげてしまう能力を、日本サッカーのバックグラウンドと考え、その磁場の中に日本サッカーを置いてみよう、ということを意味しているのかもしれない、などとつい連想してしまう。

 FIFAの処分はジダンに罰金71万円、社会奉仕3日、マテラッツィに罰金47万円と2戦出場停止、だった。事実認定がむずかしい挑発側を処分したのは異例の措置のようだ。

 それでも、できれば両選手がFIFAの事情聴取で、どんな事実内容を開陳したのかを知りたかった。深刻な人種差別発言はなかったと認定したようだが、ジダンはテレビでそれがあった、と公言していた。

 「売春婦の母」という侮辱的な言葉は、イタリアではごく日常的な表現だ、というから、日本語で言えば「ド助平」とか「ブタ野郎」とかいう程度のののしり語、なのか。ここまでこまかく問題にしようとすれば、いずれ選手はみな録音チップを襟のあたりにつけて、問題が起これば、あとでその収音機を再生して判定する、というふうになるかもしれない。監視カメラならぬ監視レコーダーである。

 罵詈雑言、卑猥語の中に人種差別語が混じっているかどうか、正確に調べようと思えば、そのような措置をとらざるをえないだろう。しかし、そんな監視レコーダーをつけてピッチを走り回るサッカーなんて、あまりいただけない。きつい頭突き一発で、ケリをつけるほうがよい。

 テレビを見た何億人もの人々の前に、人種差別の存在を、あの頭突きは結果的に明白にした。それにくらべれば、FIFAの処分は形式的な事後処理、というふうに見えた。迫力はない。

 それにしても、イギリスのテレビ局だったか、読唇術の専門家に、VTRでジダンとマテラッツィ両選手の口の動きを読みとらせていたのには驚いた。ジャーナリストの執念だ。

 オシム監督は言葉の魔術師である。日本代表選手は監督にならって、技術はもとより、しっかり言葉も磨いてほしい。言葉でも外国チームと対等にやりあってほしい。フットワークとヘッドワーク、である。

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