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vol.328-1(2006年11月21日発行)
岡崎 満義 /ジャーナリスト
スポーツ選手の「成熟」とは?

 順風満帆、昇り龍、鯉の滝登り―そんな言葉がぴったりなのが、レッドソックス入団確実の松坂大輔投手だ。入札額60億円、彼自身の年俸も12億〜18億円で複数年契約確実と伝えられる。たった1人の選手に100億円のマネーが動くわけだから、ただただ驚くばかりだ。

 これが資本主義といわれるものの、ある意味で恐ろしい一つの顔だろう。生活というレベルから見れば、遥か雲の上の数字なので、第三者はもちろん、松坂本人にとっても実感は湧かないだろう。

 26歳の松坂はあぶらがのりきっている。心技体の充実があって、あと10年位の間に、投手としてのピークを迎えるのではないか、と大きな期待をもたせてくれる。イチロー、松井、城島、井口、松井稼、田口など日本人選手との対決も楽しみだ。

 ところで、野球に限らず、一般にスポーツ選手の寿命は短い。大半の選手は自分のピークをいつの間にか駆け抜けてしまう。どんなに技術がレベルアップしようと、肝心の体力が落ちてくる。怪我や病気に見舞われて、高い体力・技術のレベルを継続することがむずかしくなってくる。そして、後続の若い選手に追い越されてしまう。残酷なくらいはっきりと、ピークからずり落ちた姿を、多くの人の目にさらすことになる。

 スポーツ選手には「成熟」「円熟」ということはないのだろうか。スポーツ医学の進歩、トレーニング方法の改善、社会通念の変化などによって、選手寿命が次第にのびてきたのはうれしい。スポーツが10代、20代の若者の独占物ではなくなってきた。40歳を越えて第一線で活躍する選手も目につくようになった。スポーツ経験だけでなく、人生経験も豊かに積み上げるスポーツ選手には、「成熟」という時期があるような気がする。スポーツ人生のピークの時と、成熟の時の2つがある、と信ずることによって、スポーツ選手のライフスタイルは大きく変わってくるのではなかろうか。

 そんなことを感じさせたのは、11月6日付朝日新聞「進藤晶子―戦士のほっとタイム」を読んだときだ。女子バスケットボールの浜口典子選手のインタビューだ。

 進藤さんが「アテネを最後に引退されて、復帰されたのはなぜでしょう」と訊ねたのに対して、浜口選手は「自分の心がどんどん沈んでしまって体調にも変化が起きたんです。最初は一部分だけがかゆいと思っていたら、だんだん体中に広がって夜も眠れないぐらいになった。かゆみ止めの薬をつけてもだめで、水を飲んだだけでも体重が増える。そんな時、アイシンAWで指揮をとる予定になっていたJOMO前監督の金平トさんからコーチ兼任で誘われた。復帰を決めて、移籍させてくださいと言ったら、かゆかったのが引きました」「(選手に復帰して)気持ちよかったです。負けるんですけど、それでも気持ちいいんだなと。JOMOの時は優勝が一番。負けたらダメ人間というくらいの気持ちでやっていた。一度外に出てまたバスケットをやったら、私はバスケットが好きだからやっていたんだなと実感できた」と、答えている。

 このインタビューを読むと、浜口選手はそろそろ「成熟」の時期にさしかかっているのではないか、と思えてくる。挫折なり、空白の期間をはさんで、自分がいかにそのスポーツが好きだったかを再認識したとき、その選手はひと皮むける、という姿になるのではないか。負けても味のある選手、ということだ。それが見る者に「成熟」を感じさせるのではないか。

 若さにまかせてまわりを蹴ちらしながら、颯爽と突き進んでいく姿もいいが、年齢を加えて「成熟」を感じさせる姿もわるくない。それもスポーツを見る喜びだ。

 松坂選手はどんな「成熟」の時を迎えるか。また、巨人を離れた桑田真澄投手の「成熟」の姿も見たい気がする。

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