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vol.307-1(2006年 6月26日発行)
大坪 正則 /帝京大学経済学部教授
ドイツの気候を知らずに非難するメディアの醜態

 サッカー日本代表のワールドカップ1次リーグ敗退を受けて、メディアが一斉に「戦犯」探しに躍起になっている。その中で、日本を代表する新聞や良識のある週刊誌ですら言及しているのが、ドイツ現地時間の午後3時から始まったオーストラリアとの第1戦とクロアチアとの第2戦の気温だ。2試合とも30度を超す高温の下で行われたので、ジーコ監督の発言を引用して、この酷暑が敗因だったというものである。

 また、キックオフの午後3時は日本時間の午後10時になるので、視聴率の取れる午後3時の試合にするよう日本のテレビ局がFIFAに圧力をかけたに違いないと、テレビ局を暗に槍玉に挙げようともしている。

 しかし、ドイツの平均的気候とワールドカップの自国代表をテレビを見ながら応援したい国民感情を勘案すると、結果的に第1戦と第2戦が酷暑の下で行われた事実は認めても、午後3時のキックオフは不公平な措置とか、テレビ局の陰謀とかのコメントは論外と言わざるを得ない。むしろ、酷暑を言い募るのは、ヨーロッパ、特にドイツの気候に対する無知を露呈することである。「戦犯」探しのためのこじつけに過ぎない。

 6月、初夏のヨーロッパは最も凌ぎやすい時期だ。ドイツも例外ではない。晴天の日が続き、空気は乾燥していて非常に清々しい。CMではないが、ビールの有名な産地である、札幌(北緯43度)、ミュンヘン(北緯48度)、ミルウォーキー(北緯43度)を比較すると、ドイツ南部のミュンヘンでも札幌より緯度が5度高い。大西洋に暖流が流れているので、寒さが緩和され、6月頃のドイツの平均気温は東京よりも5度程度低い。

 たまたま、第1戦と第2戦の時に気温が高くなっただけで、対戦カードと試合時間の設定段階では誰も高温を予測することは出来なかった。温度の変化は不可抗力だし、この程度の常識はメディアは知っておくべきではないだろうか。

 テレビ局が絡む午後3時の試合時間だが、対戦する代表チームの母国の国民が最も視聴し易い時間に試合をしてくれるのがベストであることは言うまでもない。実際、午後10時キックオフの第1戦と第2戦は50%前後の視聴率を取ったし、早朝4時の第3戦は第1戦と第2戦の半分以下の視聴率だった。つまり、第3戦を生中継で応援した人は第1戦と第2戦の半分以下だったのだ。ワールドカップをドイツのスタジアムで観戦できる人は限られる。最高でも350万人前後。一方、テレビ観戦は全世界で1万倍の350億人以上に達する。その意味において、テレビの役割は極めて重要である。視聴者の立場からテレビ局がFIFAに注文を出すことは決して理不尽なことではない。

 また、当該試合をテレビ観戦する人数が最も多いのは、対戦する2つ国の人たちであることは疑いのない事実だ。したがって、対戦する2つのチームの国民が最もテレビ視聴し易い時間帯に試合を行うようにすることは、主催者のFIFA、放送するテレビ、そして、テレビ観戦する視聴者の利益に叶っていることになる。

 日本人なら誰だって、出来ることなら、ブラジル戦を朝の4時からテレビ観戦するよりも午後10時から見たいと思ったはずだ。NHKは国民のために、ブラジル戦も午後10時キックオフにするようFIFAに正式ルートを通じ強く要請しても良かったのではないか、と思うのは私1人ではないはずだ。

 メディアの「戦犯」探しは醜い。代表チームと対戦するチームに対する正当な分析を怠ったメディア自身が最悪の「戦犯」であるとの自覚があれば、戦犯を無理やり探して非難することはないのだが。

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