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vol.288-2(2006年 2月10日発行)
滝口 隆司/毎日新聞運動部記者

「こころのプロジェクト」は普及のカギだ



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「こころのプロジェクト」は普及のカギだ
滝口 隆司/毎日新聞運動部記者)

 日本サッカー協会が小学生を対象に「こころのプロジェクト」という事業を始めるという。低年齢からのエリート教育ばかりが重視される時代で、競技団体が子どもたちの人間性にも目を向け始めた点は注目に値する。

 柔道でも同じような動きが起きている。全日本柔道連盟と講道館が2001年秋から始めた「柔道ルネッサンス」だ。

 柔道が世界のJUDOと呼ばれ、競技性ばかりが求められるようになったことに疑問を感じた山下泰裕さんら全柔連の幹部が、柔道の本質を問い直そうと考えた企画である。当時、柔道を担当していた私も、この委員会のメンバーに加わった。

 ルネッサンス、いわば柔道を通して「人間復興」を考えてみようという。この話を持ち掛けられた時、私は井上康生から聞いたエピソードを思い出した。

 ある試合で井上が相手をこてんぱんにやっつけた。逃げ腰だった相手を蔑み、井上は相手を侮辱するような態度で礼もせずに畳を下りたという。その直後、井上は父親から「お前は相手があって柔道をさせてもらっているんだ。相手があるから強くなれる。偉そうになるな。感謝の気持ちを忘れるな」と雷を落とされたそうだ。

 勝っても負けても相手を敬う尊さを忘れてはならない。精神と力を最大限に用い、己も相手も栄える、という「精力善用、自他共栄」の柔道精神を父親は井上に説いた。

 ラグビーではアフター・マッチ・ファンクションという習慣がある。試合後、ささやかなパーティーを開き、勝者と敗者が懇親をはかる。試合が終われば、敵も味方もないという「ノーサイド」の精神がその根底にある。

 根性論を説いて暴力をふるう指導者が今もはびこる中、スポーツに精神主義を持ち込むべきではない、というのが最近の風潮かも知れない。しかし、エリート教育がもてはやされる時代で、スポーツを通じた「こころ」の教育は見失われがちだ。野菜の促成栽培のように、多くの競技団体が早い段階から才能ある選手を発掘し、国際的に活躍できる日本代表の予備軍を養成しようと躍起だが、それだけでいいのかどうか。

 早大ラグビー部を率いた故・大西鉄之祐氏は著書の中で「スポーツと遊戯は異なる」と説いている。スポーツは遊びではあっても遊戯ではない。技術を磨き、戦術を工夫し、敵と対戦する。そうした「闘争」の中で「倫理」を学ぶ。それがスポーツマンシップであり、フェアプレーの精神だ。失敗もあれば、成功もある。そして、仲間がいる。

 次代を担う子どもたちにスポーツを通じて「こころ」をどう教えていくか。と同時に「こころ」を教えられる指導者をいかに育てていくか。子どもにプロ選手になってほしい、と願う親ばかりではない。人間的成長を促すスポーツの教育的価値は、競技を普及させる上でも新時代のカギになるはずだ。


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