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vol.303-3(2006年 6月 2日発行)
滝口 隆司 /毎日新聞大阪本社運動部記者
スポーツ中継は「報道」か「娯楽」か

 報道は受信料で賄い、娯楽は有料化―。

 政府の規制改革・民間開放推進会議(議長・宮内義彦オリックス会長)がNHK改革でそんな方針を打ち出した。NHKの地上波2波を、報道などの「基幹的サービス」と娯楽番組などの「それ以外のサービス」に再編し、「それ以外」をスクランブル化(有料化)するというのだが、これが実現した場合、スポーツはどんな扱いを受けるのだろうか。

 内閣府のホームページ上で公表された、同会議の見解は次の通りだ。

 「受信料収入をもって行う公共放送としての事業範囲は真に必要なものに限定すべきである。それ以外の事業については、廃止すべきものは廃止するとともに、存続の意義が認められる事業については、視聴者・利用者との自由な契約に基づく料金収入等によることとし、受信料収入で賄われる公共放送とは明確に区別」と前置きし、こう続ける。

 「現在の地上波2波を考えた場合でも、報道等の基幹的なサービスと娯楽番組等のそれ以外のサービスに再編成し、前者を真に公共放送に相応しい事業として受信料収入で賄い、後者については有料・スクランブル化など視聴者との自由な契約に基づく事業とすべきである」

 これを具体的に想像してみれば、ドラマや歌番組はまず有料化か。朝の連続ドラマや紅白歌合戦もそうなるだろう。ではドキュメンタリー番組は報道の扱いを受けるのだろうか。すでに終了したが、例えば「プロジェクトX」は報道か娯楽か。

 そして、スポーツである。もちろんスポーツニュースは報道だが、スポーツ中継はどうなるのだろう。オリンピックやサッカー・ワールドカップ、高校野球や大相撲の中継は娯楽となるのか。それとも公共放送に真に相応しいと認められ、有料化を免れるのか。

 スポーツ放送の有料化をめぐっては、欧州で90年代後半から沸き起こった「ユニバーサルアクセス権」の議論が有名だ。英国やドイツ、イタリアなどで有料衛星放送局がスポーツの放映権を次々と独占取得し、その結果、カネを払わなければスポーツをテレビ観戦できなくなった。これに対し、普遍性(ユニバーサリティー)を持った国民的イベントをだれもが無料で視聴できる権利がクローズアップされた。そのような声が一般大衆からも起きたことに、欧州におけるスポーツ文化の意識の高さがうかがえた。

 日本でこのような議論が起きたことはない。だが、今回の政府の動きや受信料不払いの急増を考えると、近い将来、NHKのスポーツ中継にスクランブルがかかることも十分あり得るのではないか。

 日本の視聴者はまだユニバーサルアクセスの知識にも疎い。スポーツを視聴する権利意識も希薄だ。経営者の立場で考えれば、ニュース番組や天気予報を除いて有料化してしまえば、視聴者は否が応にもカネを払うだろう。オリンピックやワールドカップを見られなくなるのなら、嫌々でも財布からカネを出すだろう。そして、受信料も徴収できる。政府はそんなことを腹の底で考えているのではないか、と勘ぐりたくなる。

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