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vol.307-5(2006年 6月30日発行)
滝口 隆司 /毎日新聞大阪本社運動部記者
スポーツメディアが煽る構造

 サッカー日本代表だけでなく、われわれメディアにも批判の矛先が向けられていることを痛切に感じる。日本代表が1次リーグを突破できそうだと煽り続けた反動である。トリノ五輪の報道も同様だった。メダル、メダルと前景気を煽った挙句、日本選手団は惨敗に終わった。こんな状況が続くようならば、読者や視聴者のメディア不信はさらに増幅していくに違いない。

 なぜ煽ってしまうのか。なぜ冷静に報道できないのか。そこには構造的原因があるように思えてならない。

 まずは映像メディア、テレビについて考えたい。五輪にせよ、W杯にせよ、巨額の放映権料が動く時代だ。放送局は視聴率を上げて元を取らなければならない。単なるスポーツ中継ではなく、タレントも交えたショーアップで見せなければ、視聴者はチャンネルを止めてはくれないと考えるのだろう。中継以外でもワイドショーや特番でおおいに盛り上げる。それで放映権料を回収できる広告主がつく。

 しかも、日本の放送局は「ジャパン・コンソーシアム(JC)」という共同体で放映権を購入している。この方式には放送局の負担額が少なくなる長所はあるのだが、一方で、全放送局が一斉に盛り上げに走り、大政翼賛的な報道に終始する短所もある。

 その雰囲気に活字メディアはつられる。新聞社の中にいれば、よく分かることだ。編集局内で一日中ついているテレビの各チャンネルが「がんばれニッポン」を始めれば、否が上にも「ウチの紙面でも」というムードが形勢されるものだ。読者はテレビを見て新聞を読む。テレビよりもさらに詳しい内容を、となれば、扇情的報道に拍車がかかる。

 こうした流れに抵抗はできるのか、というのが今後の大きな命題だ。

 今回、唯一感心した報道がある。オーストラリア戦のキックオフ3時間前に流れたNHKの午後7時のニュースだ。画面に登場したのは岡田武史・元日本代表監督だった。中田英寿が「相手よりも走る自分たちのサッカーができれば勝てる」と語ったインタビュー映像の後、岡田さんが口をはさんだ。

 「ヒデや解説の井原(正巳)さんは日本の方が上という見方をするんだけれど、私にはそうは思えないんですね」。さらに「私も監督ですからじっくりと研究したのですが、力は五分五分と見たほうがいいと思う」と続けたのだ。今から盛り上がろうとする雰囲気に水を浴びせるような、冷静なプロの批評だった。

 こうしたプロの眼力を持った批評を、われわれメディアは元選手や監督の「解説者」に任せ続けてきたのではないか。今回の各紙を見ても、入れ代わり立ち代わり、いろんな「解説者」が登場している。確かに紙面ばえはするかも知れない。しかし、だ。

 批評眼はあるのか、と自問自答すれば私も胸は張れない。試合を見て選手の話を聞き、少しばかりの薀蓄を加えてお話風の読み物を書いてきただけではないか。そんな反省のもとにスポーツメディアの「批評力」を考える時期に来ているのかも知れない。

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