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vol.317-2(2006年 9月 8日発行)
滝口 隆司 /毎日新聞大阪本社運動部記者
シダックスの解散とTDKの優勝

 社会人野球の強豪、シダックスが解散を表明した。1993年創部。キューバ選手の獲得や、野村克也監督の招聘で話題を呼んできたチームが、13年の短い歴史に幕を下ろした。

 解散の理由を各紙で読んでいると、これまでの様々なスポーツ部の休廃部とは少し違うような気がしてきた。7日に東京都内で記者会見した志太勤会長は@野村監督がプロ野球の楽天に行ったことA支援してくれた山本英一郎・日本野球連盟前会長が亡くなったことB都市対抗の予選で敗れたこと―を理由に挙げている。経営難やリストラといった言葉は一切なく、端的に言えば、情熱がなくなったということだろうか。

 ここで考えさせられるのは、企業のスポーツチームはだれのものか、という点だ。オーナーのものか、会社のものか、社員のものか、選手のものか。シダックスの場合、選手の意思や情熱があまり考慮されなかったのは残念の一言に尽きる。

 先日終わった都市対抗で東北勢に初の優勝をもたらした秋田県にかほ市のTDKも、昨年は苦渋を味わっていた。59年の創部ながら、これまで8回の都市対抗出場で勝利はなし。昨年は2年続けて本大会出場を逃し、それまで午前中だけだった就業時間を夕方まで延ばされたという。しかし、そうした練習環境にもめげず、逆境をバネにして再び東京ドームへ返り咲き、しぶとい戦いで優勝への階段を駆け上がったのだ。

 社会人野球を取材していると、こうして厳しい環境を克服したチームの活躍によく出くわす。昨年は川崎市の三菱ふそう川崎だった。本社のリコール問題で1年間は活動を休止したが、そのハンデを乗り越えて激戦の神奈川予選を勝ち抜き、本大会でも全国の頂点に立って見せた。

 今年の大会で兵庫の代表になった姫路市・新日鉄広畑は、新日鉄本社の方針により、練習環境がクラブチームとさほど変わらなくなったという。運動各部は地域密着を目指す「広域チーム」となり、会社は部を「所有」するのではなく、「支援」する。それが本社の方針転換だった。

 メンバーの中には、休部となったミキハウスから移籍してきた選手もいた。池田強志という左腕だった。彼は大学を出てミキハウスに入ったものの、部の活動が大幅縮小されるのを知り、他チームへの移籍を希望して新日鉄広畑に移ってきた。そして、新日鉄で初めて東京ドームのマウンドを踏んだ。三菱ふそう川崎に2点差で敗れはしたが、3年ぶりに出場したチームとしては、前年覇者を相手に十分な健闘だった。

 企業チームはもちろん会社の経営下に存在する。選手も理解はしているだろう。だが、こんな苦労を重ねた選手やチームの話を聞いていると、休部や解散を考える企業には「もう少し踏ん張れないものか。もう少し長い目で見てやれないか」と言いたくなる。それが経営難やリストラという会社の事情ではなく、オーナーの「気持ちの張りがなくなった」という理由であるならば、なおさらそう言いたくなるものだ。

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