スポーツネットワーク
topページへ
スポーツバンクへ
オリジナルコラムへ
vol.324-2(2006年10月27日発行)
滝口 隆司 /毎日新聞大阪本社運動部記者
再考したい日米野球の価値

 11月に行われる日米野球の動向がどうも気がかりだ。ここまで辞退者が相次ぐと、いったい何があるのか、という気にもなる。

 現在、出場辞退を表明した日本の選手と理由は次の通りだ。
 ▽投手 松坂大輔(西武)=右ひじ痛、藤川球児(阪神)=右肩の治療、斉藤 和巳(ソフトバンク)=右肩の治療▽三塁手 岩村明憲(ヤクルト)=ひざと腰の治療▽外野手 新庄剛志(日本ハム)=引退、福留孝介(中日)=右肩の治療▽指名打者 松中信彦(ソフトバンク)=でん部の手術

 「日米野球とは、引退を発表している選手が出るよりも、バリバリ現役の選手がMLBの選手とぶつかり合うそんなステージだと俺は考えます。なので俺が出るよりも若い選手にそのチャンスが与えられるべきだと考えるからです」とコメントを出した新庄の考えはまだ理解できる。

 しかし、他の選手はどうだろうか。松坂は9月中旬のソフトバンク戦で打球を右ひじに受けた痛みが残っているという。その他の選手は、故障というよりも「治療」を理由にしている。シーズンを終え、日米野球よりも体のケアを優先させたい、ということか。

 この顔ぶれを見ても分かるように、注目選手ばかりだ。ちなみに、斉藤以外はすべてファン投票で選出されている。監督推薦の斉藤とて今年の沢村賞投手ではないか。

 スポーツ紙によれば、全日本を率いる楽天の野村克也監督は「自己中心の選手が多すぎる。ペナントレースで普通にやっていて何が体調不良だ。やるからには喜んで出てくれる選手でやるのが一番。何なら楽天対メジャーでやってやろうか」と苦言を呈したそうだ。

 これには伏線があるようだ。7月下旬、大阪で行われた会合でプロ野球選手会が、日本プロ野球組織(NPB)に対し、「今秋はボイコットしないが、今回で最後にしてほしい」と今年限りでの日米野球打ち切りを求めた。国別対抗戦、ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)が実現し、日米野球は時代の役目を終えた、というのが選手会の主張だ。

 だが、日米野球とWBCは同列に扱うべきことか。これまで全て日本で開催されてきた日米野球は、日本の選手とファンに本場の野球を生で見せる絶好の機会であった。いくら衛星放送で毎日メジャーの試合が見られる時代になったといっても、それとこれとは別物だ。シーズン後の大リーガーは真剣にプレーしていない、という声もある。それでも、本物を生で見られる場は貴重なはずだ。

 私個人の話でいえば、今も脳裏に焼きついているシーンがある。ニューヨーク・メッツが単独で来日した1974年、私は父に連れられ、大阪球場へ行った。対戦したのは南海・巨人連合だった。

 長嶋茂雄が現役を引退した年である。しかし、長嶋は日米野球でもユニホームを着続けていた。南海・巨人連合には野村、門田、王らがおり、メッツのマウンドにはあのトム・シーバーがいた。

 試合の終盤、それまで三塁コーチャーだった長嶋が代打で打席に立った。白い手袋に白木のバット。長嶋は豪快な空振り三振に終わったが、小学生の時に見たその記憶が強烈に残っている。ベーブ・ルースと沢村栄治が対決した昭和の初めから続く日米野球の長き歴史。その価値をもう一度考え直したいものだ。

筆者プロフィール
滝口氏バックナンバー
SAバックナンバーリスト
          
無料購読お申し込み

advantage
adavan登録はこちら
メール配信先の変更
(登録アドレスを明記)
ご意見・ご要望

Copyright (C) 2004 Sports Design Institute All Right Reserved
本サイトに掲載の記事・写真・イラストレーションの無断転載を禁じます。  →ご利用条件