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vol.327-3(2006年11月17日発行)
滝口 隆司 /毎日新聞大阪本社運動部記者
いつもと違う南北合同行進の意味

 12月にカタール・ドーハで行われるアジア大会に向け、北朝鮮が韓国に開閉会式での合同行進を提案したという。

 南北合同行進は、2000年のシドニー五輪から始まり、五輪とアジア大会で計7回行われていて、それ自体は珍しいことではない。しかし、今回は北朝鮮が核実験を行った後の大会だ。これまで以上に複雑な政治情勢が絡んでくると見るべきだろう。

 韓国の通信社、聯合ニュースによると、北朝鮮オリンピック委員会の文在徳委員長が10日、板門店を通じて韓国オリンピック委員会の金正吉委員長に、アジア大会での合同行進と2008年北京五輪での統一チーム結成について議論することを提案する文書を送ってきたそうだ。国連の制裁決議などもあって、北朝鮮の態度が軟化してきたのだろうか。

 「韓国政府は北朝鮮の提案を受け、関係官庁間の協議で前向きに検討しているようだ。北朝鮮を非難する声は強いが、今回は政治問題ではなく、ぎくしゃくする南北関係を改善する糸口にしたい考えがある」というのが記事中に出てくる聯合ニュースの観測。韓国側は選手団が出発する28日までに態度を決めるという。

 北京五輪での統一チーム結成については、選手構成に関する話し合いが難航していたが、9月に国際オリンピック委員会(IOC)のロゲ会長が選手枠の拡大を約束。そうして協議が前進しようかという矢先に核実験問題が起きたのだ。

 10月に来日したロゲ会長は「核実験がすべての状況を変えた。国際情勢の展開をみなければならない」と記者会見で語り、統一チーム結成への議論が難しくなった、という見方を示した。

 朝鮮半島の問題だけで語れるものではない。中国と北朝鮮、米国と中国、もちろん日本と北朝鮮の関係も絡んでくる。この微妙な国際政治の延長線上に北京五輪、ドーハ・アジア大会が位置付けられる、といっていいだろう。

 統一旗を掲げての南北合同行進といえば、シドニー五輪当時は新聞の一面クラスのニュースだった。もはや慣例化し、最近は大きな話題にはならなかったが、今回のアジア大会の合同行進と北京五輪の統一チーム結成は、アジアの平和や世界情勢に影響を与える問題として、再び目を向けなければならない。

 ただ、残念なのは、常にこの南北に絡む話は政治主導で行われていることだ。スポーツ界からこのような動きが出たわけではなく、常に政治に利用される立場にある。「オリンピッック・ムーブメント(五輪運動)」の名の下に、スポーツによる国際平和を理想に掲げるのであれば、時にはスポーツ界主導で動いてみてはどうなのか。

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