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vol.329-2(2006年12月1日発行)
滝口 隆司 /毎日新聞大阪本社運動部記者
アジア大会は五輪のアジア版でいいのか

 肥大化が指摘されるアジア大会でも、規模縮小の議論が続けられているようだ。アジア・オリンピック評議会(OCA)では、五輪で実施しない競技を外し、昨年から新しく始まったアジア室内大会に移すことを検討しているという。

 今夜開幕するドーハ・アジア大会の実施競技数は39。アテネ五輪の28競技を大きく上回り、世界でも最大規模の総合大会となっている。だから、肥大化を抑制しようという議論が出てくるのも無理はない。今大会では近代五種が外れたため、五輪競技は27競技。残る12競技が「五輪外」である。どんなものがあるのか。改めて列記したい。

 ソフトテニス、ラグビー、空手、ボウリング、武術太極拳、ゴルフ、スカッシュ、ビリヤード、ボディービル、カバディ、セパタクロー、チェス。ちなみに、チェスは今回から加わった新顔でもある。

 私がアジア大会を取材したのは1998年のバンコク大会だった。数々の競技現場に足を運んだが、「五輪外」の取材は興味深いものばかりだった。

 大会前にはビリヤードの日本代表を取材した。この人は、ビリヤード場を経営しながらプロとして様々な大会に出場し、賞金を稼いでいた。面白いもので、大相撲のタニマチのように、ビリヤードの世界にも選手の支援者がいるという話も聞かされた。取材に行く前は「ビリヤードはスポーツといえるのか」という疑問も持っていたが、ビリヤード台の表面の湿度によって球の回転が微妙に変わってくる、といった話を取材するうちに、ビリヤードのスポーツとしての奥深さが少し見えたような気もした。

 大会が始まると、カバディの取材に行った。「どんな人がカバディなんてやっているんだろう」という疑問があった。現場に行ってみると、日本代表を組んでいるのは大正大学の学生だった。

 インドなど南アジアで数千年の歴史があると伝えられる競技だ。細かいルールは省くが、「カバディ、カバディ、カバディ・・・」という声を出しながら攻撃側が守備側の選手にタッチして自分のコートに戻る。そんな光景を何となく知る人も多いだろう。大正大学は仏教系の大学であり、インドとの交流もあってカバディが盛んな様子だった。中には大学を休学してインドに「カバディ留学」をした選手もいると聞いた。

 1951年にインド・ニューデリーで第1回大会が開かれたアジア大会は、今回で15回目を数える。五輪競技だけでなく、カバディやセパタクローといったアジア特有の民族スポーツが行われていることが、大きな特徴だった。単なる「五輪のアジア版」ではなく、そうした競技を通じてアジアが見えてくる、という面もあったはずだ。

 国体改革の議論の中でも、五輪競技でないスポーツは「国際性がない」として除外の対象になった。その時も感じたことだが、「五輪競技にあらざれば、スポーツにあらず」という風潮が強くなりすぎてはいないか。いや、2012年ロンドン五輪から野球とソフトボールが除外されるように、五輪競技でさえ不確定な時代。実施競技の見直しには、やはり慎重であってほしいものだ。

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