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vol.330-2(2006年12月8日発行)
滝口 隆司 /毎日新聞大阪本社運動部記者
日本のオールスターからスターはいなくなる
〜今年を振り返って@〜

 年末になって、三洋電機がプロ野球オールスター戦の冠スポンサーから撤退することを発表した。12月1日付で出されたニュースリリースは「冠スポンサー契約の終了について」として、こんな言葉を連ねている。

 「オールスターゲームというすばらしい国民的イベントを通して弊社の活力を広く社会にアピールするという一定の目的を達成したとの判断に加え、昨今の弊社を取り巻く厳しい経営環境等を総合的に勘案し、今回の決定に至ったものです」

 もちろん、撤退の第一の理由は三洋電機の経営再建にあることは間違いない。1988年から今年までの19年間、毎年3億4000万円の特別協賛金を出してきたというのだから、それだけの経費削減は見込める。だが、これまで三洋電機の内部ではオールスター戦は会社のイメージ戦略に欠かせない「聖域」として、たとえ経営が苦しくとも削減対象にはならなかったそうだ。

 この撤退を「スポーツの側」から見てみれば、最近のオールスター戦には真のスターが出ていたのか、という疑問が沸いてくる。松坂大輔や井川慶といった日本を代表する投手も、来年は日本から去って行く。今後も冠スポンサーであり続ける価値はあるのか。私が経営者ならそう考えるかも知れない。

 松坂に60億円、井川に30億円という値段がつき、球団幹部がほくほく顔で会見している。そうした光景を見ていると、日本選手が商品化され、国際市場(この場合は米大リーグ)で売買されることを歓迎する時代になったのか、と思える。今年はその風潮が顕著になったといえるかも知れない。

 松井秀喜がFA宣言をした2002年の暮れ、メジャー行きにはまだ異論や反論が渦巻いていた。だが、その後、ポスティング制度で米国移籍を求める選手が増え、巨額の「売却益」を手にできる日本球団に抵抗感はなくなった。そうして、日本球界はメジャーへ人材を供給する「牧場」となり、その現状を受け入れている。

 こういう議論をすると「スターが出て行けば、また新しい選手が育ってくる」と楽観的に語る人がいる。だが、松坂のような投手が次から次へと出てくるのだろうか。育たなければ、よそから連れてくることを考えるだろう。松井が抜けた後の巨人といえば、ペタジーニや小久保ら他チームの主砲を次々と連れてきて、今年は韓国を代表するスラッガー、李承Yが4番に座った。

 以前、東ドイツのサッカークラブを取材したことがある。東西統一後、東側のクラブは育てた選手を西側に売り、それで経営資金を稼いでいた。やがて選手が育たなくなると、ボスニア・ヘルツェゴビナやアフリカの選手を安く買ってきて、それをすぐさま西側クラブへ「横流し」するようになった。そのように選手を商品として売買しているのが、欧州サッカー界で起きている現象だ。

 三洋電機の球宴からの撤退は、「日本市場の価値低下」を考えさせる。今年の日米野球でも日本のスター選手たちは相次いで出場を辞退した。日本の選手会はメジャー主催のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の方が価値は高いと判断し、日本で開催する日米野球は今回限りにしてくれ、と主張した。日本球界が長く培ってきた土台。それがガタガタと崩れ落ちる音が聞こえてきそうだ。

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