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vol.360-1(2007年7月12日発行)
五味 幹男 /スポーツライター
U-20日本代表がみせるチームの理想形

 U-20日本代表が元気だ。グループリーグを2勝1分の無敗で1位通過を果たした。

 戦前の予想は厳しいものだった。スコットランド、コスタリカ、ナイジェリアは、いずれも日本と同等もしくはそれ以上の力を持っているといわれていた。前回大会では決勝トーナメントに進出したものの結局1勝も挙げられなかったという負の記憶もある。それらを含めて考えれば、彼らが自分たちのサッカーを貫きながら互角以上に渡り合った事実は、結果以上の価値がある。

 彼らを見ていると、改めて「チーム力」というものに思いが及ぶ。それを示している格好の現象が、ゴール後に選手全員が集って行うパフォーマンスだ。第1戦のスコットランド戦では現在日本で人気を博す「ブート・キャンプ」のひとコマを披露し、続くコスタリカ戦では刀を抜き上段から斬りつける動きでサムライをアピールした(いずれも最後はサンフレッチェ広島のウェズレイがゴール後に見せる、背から矢を抜いて射るというパフォーマンスで締め括られる)。ノーゴールに終わったナイジェリア戦は試合後に「相撲」のパフォーマンスをしていたというが、彼らはそれを一部の選手だけでなく、全員でやる。ゴールが決まれば守備の選手は全力で駆け寄り、前線の選手はそれを待っている。ゴール後に前線の選手の何人かが集ってやる光景は見かけるが、全員というのはなかなかお目にかかれない。

 彼らのパフォーマンスの評価については賛否が分かれるところだろう。映像を見る限りでは、観客の受けもよさそうな雰囲気が伝わってくる一方で、調子に乗り過ぎではないか、浮かれるのもほどほどにしないと、といった声もどこからか聞こえてきそうである。精神的な幼さを指摘する人もいるかもしれない。

 だが、それらはまったくの杞憂であろう。なぜなら、それ以外の、プレー中の彼らからは、現状に満足するのではなく純粋に上だけを見据えている緊張感が強く伝わってくるからだ。フィールドに立っている選手だけでない。ベンチメンバーを含めた全員がそれぞれに引力を発揮してお互いを引っ張り合いながら、その集合体としてひとつのチームが成立していることが伝わってくる。

 それは長い間、日本代表に見ることができなかった光景だった。U-20と対比すれば、これまでの代表チームは、監督という「核」に選手が引き寄せられた集合体だった。個々が100の能力を100発揮することだけに懸命になり過ぎていた。選手が他の選手から120の力を引き出そうという現象は見られなかった。選手おのおのが互いに引っ張り合うことで「チーム」という集合体になれていなかったのだ。

 ドイツW杯を戦った日本代表はまさしくそのようなチームだった。クロアチア戦の2日前にボンで行われた練習を見に行ったが、そこではU-20のようなすべての感情を全員で分かち合うといった雰囲気は微塵も感じられなかった。伝え聞いてはいたが、数人で構成される輪が談笑しながらボール回しをしている一方で、中田英寿がそこから遠く離れたところでひとりボールを蹴っており、かと思えば、キャプテンの宮本恒靖はジーコと深刻な面持ちで額を長時間つき合わせているという光景は、チームという点でいえば異様だった。

 年齢差が3歳以内の同世代でチームをつくることのできるメリットが、確かにU-20にはある。さらに全員とはいえないまでも、下の年代から同じ時間を共有してきたという意識の積み上げもあることを考えれば、今回のU-20とドイツW杯の日本代表を単純比較することはできないのかもしれない。ただ、オシム代表監督が掲げる「日本サッカーの日本化」のためには、今大会のU-20のように全員が頂点となって互いに引っ張り合いながら、結果として全体のバランスが生まれるチームがひとつの理想形といえるような気がする。

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