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vol.346-2(2007年4月6日発行)
葉山 洋 /マーケティング・コンサルタント

クリケットの悲劇

 大事な試合を落とし、その結果殺人事件が起きてしまう。決してあってはならないことである。

 1994年のFIFAワールドカップで、対戦相手のアメリカにオウン・ゴールを献上してしまい敗因をつくったコロンビアのディフェンダー、エスコバルは、帰国後故郷のメデジンのレストランで見知らぬ客に声をかけられた。「グラシアス セニョール!(ありがとうよ)」の捨て台詞とともに、拳銃が発射された。ほぼ即死だったという。サッカー賭博がらみの犯行であった。

 サッカーは「恐ろしい」という話は、数多くある。大きな金が動いているからだ。

 サッカーと対照的に、日本人にとって最も馴染みのないスポーツは、恐らくクリケットではないかと思う。しかし驚くなかれ、クリケットは地球上でサッカーに次ぐ人気を誇ると言っても過言ではないチームスポーツなのだ。ラグビーと同じく英国発のスポーツで、コモンウェルス(旧英領諸国)を中心にプレーされている。だから私たちが接触するチャンスは乏しいのだが、オーストラリア、ニュージーランド、南ア、インド、パキスタン、スリランカ等々、盛んな国は多い。極めて熱狂的だ。そんなクリケットにとって最大の祭典がICC*ワールドカップである。

 4年に一度開催されるワールドカップがまさに今、西インド諸島で行われている。3月12日に開幕し、4月28日の決勝戦まで48日間。16カ国、51試合**による壮大なスポーツイベントである。スポンサーシップもテレビ放映権も数千万ドルという信じられないような高額で取引される。

 前回大会まで2大会連続でチャンピオンに輝いたのはオーストラリア。しかし、イングランドをはじめインド、バングラデシュ等々、強豪国は多い。そんな優勝候補のひとつにパキスタンがあった。

 ところが予想に反し、3月13日の対西インド諸島戦、17日の対アイルランド戦(パキスタンのファンは絶対勝てると信じていた)とまさか、まさかの連敗を期してしまったのだ。あっけなく第1ラウンドでの敗退が決まってしまったその2日後、パキスタン・チームにさらなる悲劇が襲いかかった。監督のボブ・ウールマー氏が滞在先のホテルの部屋で、絞殺死体で発見されたのである。

 ウールマー監督は元クリケット選手で大柄だ。にもかかわらず争った形跡もなく、金品も取られていない。従って顔見知りの犯行ではないかという憶測が流れている。しかし、いまだ犯人は捕まっていないのだ。

 国によってはサッカー以上に「熱くなる」クリケットのことである。突然夫を亡くした夫人は「いつかこうなるのではないかと案じていた」と意味深長な言葉を残した。クリケットでもスポンサーシップや放映権といった「表」の経済とは別に、世界を相手にした巨額な博打の金が動いているのは否定できない事実である。

 クリケット・ワールドカップはウールマー氏が亡くなったあとも予定どおり行われている。予選敗退のパキスタンチームは既に帰国してしまったが、遅くとも決勝戦の前までには犯人が逮捕されることを期待してやまない。

*国際クリケット評議会
**正式の5日間のテストマッチではなく、One−dayの試合である

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