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vol.354-2(2007年6月1日発行)
葉山 洋 /マーケティング・コンサルタント

FIFA副会長候補の失言

 昨年の6月。ワールドカップに際してミュンヘンで開催されたFIFA総会において、新たな独立司法委員会の設置が可決された。倫理委員会(Ethics Committee)である。

 初代の委員長に就任したのはセバスチャン・コー(卿)。イギリスを代表する往年の中距離の名選手であり、最近では2012年ロンドン五輪の招致委員会会長として名声を得た。

 当委員会は人種差別、違法賭博、汚職、違法薬物など、サッカーを取り巻く問題に対処してゆくそうである。大切なことである。高潔な人物として知られるセバスチャン・コーに大いに期待したい。

 倫理委員会は近々重大な嫌疑の審議を行う予定だと伝えられている。嫌疑の内容は、今回チューリッヒで開催されたFIFA総会で副会長に就任する手筈だったジョン・マクベス、スコットランド・サッカー協会会長の差別的、あるいは侮蔑的発言をめぐってのことである。

 マクベスが「ほとんど」手にしようとしていた栄誉は、同じくスコットランド出身で今回の総会をもって引退するデイビッド・ウィルの職責を引き継ぐものだった。17年にわたって副会長をつとめてきたウィルの立場は、イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドの4協会を代理するもの。サッカーの「母国」英国にだけ認められてきた特権である。当然のことながら批判・不満も多い。

 「ほとんど」。マクベスの推薦状は、総会の当日(5月30日)になって英国4協会が自主的に取り下げることとなった。混迷を回避するためだ。急遽選出されたのはジェフ・トンプソン、イングランド協会(FA)会長である。これと言った議論もなく、トンプソンはFIFA副会長に就任した。タナボタ以外のなにものでもない。

 マクベスは一体どんな発言をしたのか。伝えられているところによると、こうだ。

 曰く、「ブラッターは狡猾な人物だ。しかし彼の立場になれば当然だろう。なにしろ相手にする人間がまったく違った倫理観を持ち合わせているのだから。」

 曰く、「アフリカは別世界。貧しい国々だ。だから常にがつがつしている。握手をした後、私は自分の指がちゃんと揃っているか確かめたくなる。そんな連中を2、3人知っている。カリブの連中も似た様なものだ。ただやり口が違うだけだ。」

 曰く、「(スコットランド人の)私が(FIFA副会長に)選ばれるのはイングランドの帝国主義的発想が世界から忌み嫌われているからだ。」

 あと半歩で大いなる名誉を得られるはずだった人間が、どうして? 記者の巧みな誘導だろうか。心のゆるみだろうか。

 2010年のワールドカップ南ア大会を控え、FIFAは人種差別に特に神経質にならざるを得ない。FIFA加盟のかなりの諸国は発展途上国なのである。さて、マクベスから忌み嫌われていると評された「イングランド人」のセバスチャン・コーは如何なる判断を下すだろうか。

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