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vol.356-2(2007年6月15日発行)
葉山 洋 /マーケティング・コンサルタント

公式マークで癲癇(てんかん)発作

 北京オリンピックの開催までまだ1年以上もあるのに、さらにその先の2012年ロンドン五輪の公式エンブレムが早々と公開された。英国の現地時間、6月4日のことである。

 4つのジグソーパズルにも見えるエンブレムを開発したのはウォルフ・オリンズ(Wolff Olins)。ブランドデザイン・エージェンシーの老舗である。アテネ五輪の月桂樹をモチーフにしたロゴ・デザインも、実は同社の作品だ。

 30近いさまざまな競技の集合体であるオリンピック大会にとって、公式マーク(エンブレムとマスコット)の存在は極めて重要だ。ひとによって興味の対象(スポーツ)が異なるオリンピック。さまざまなイメージが育まれているオリンピック大会それ自体を確実にコミュニケートしようと意図すれば、主催者は公式マークのパワーや魅力に頼らざるを得ないからだ。

 従来オリンピックのエンブレムには、ホストシティーの特徴が何らかの形で表現されるのが常だったが、今回は2階建てバスもビッグベンやタワーブリッジも描かれなかった。ロンドンの持つ歴史や伝統より、革新的なイメージを前面に押し出した作品に仕上がっている。

 ロンドン組織委員会の思惑とは裏腹に、エンブレム発表の直後から世の中は批判的意見に溢れかえった。幼稚である。印象的でない。複雑すぎる。美しくない。さらには、「(ナチスの)鉤十字」を連想させる、という意見まで飛び出した。

 請願の専門サイトであるgopetition.comに寄せられたエンブレムの作り直しを求める「署名」は6月14日現在、5万人に迫る勢いだ。

 過去にも非難を浴びて公式マークの修正を余儀なくされたスポーツイベントがあった。

 1986年メキシコ・ワールドカップのマスコットは、ソンブレロハットとポンチョをまとった伝統的なメキシカンだったが、鼻が赤くデザインされていたため「メキシコ人がみんな酔っ払いだと勘違いされる」とクレームがついた。鼻の部分だけとはいえ、すべての制作物の色を差し替えることになった。

 1994年アメリカ・ワールドカップでも、やはり「マスコットの犬(確かストライカーという名前だった)が穿いていたパンツのスタイルが変だ、アメリカ人がサッカー音痴である証拠だ」とこき下ろされ、発表直後に修正が施された。いずれのケースも今となれば笑い話にすぎない。

 しかしながら、今回のロンドン五輪のケースはいささか問題の質が異なるようだ。そしてシリアスでもある。なぜなら、発表のプレゼンテーション用に制作されたビデオを見て、少なくとも10人以上の癲癇(てんかん)の患者が発作を起こしたとみられるからだ。原因としては、何回も挿入された光の点滅(フラッシュ)ではないかと推測されている。なにやら何年か前のテレビ・アニメの出来事が思い出される。

 人々の批判は、当然ながら、エンブレムの制作費が40万ポンド(約9700万円)もかかった事実にも及んでいる。ホストシティーであるロンドンの市長は「なっていない」と怒りをあらわにしているが、今のところ組織委員会は「修正に応じる気は全くない」と強気である。

 予想外のつまずきを見せた2012年ロンドン五輪だが、結果的にひとびとの関心を飛躍的に高めることになった。災い転じて福となすことが出来るだろうか。倫理の人、組織委員長セバスチャン・コー卿の手腕が問われることになりそうだ。

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