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vol.371-1(2007年9月26日発行)
松原 明 /東京中日スポーツ報道部
「目を見張る世界女子サッカーの進歩」

 上海を中心に、中国で開催中の女子サッカー・ワールドカップを取材して、世界各国の飛躍的進歩に、目を見張る思いだ。

 決勝は、今月30日。どこが王座に着くか、予断を許さないが、今や、とても女子サッカーとは思えないほどの、ワザの冴え、チーム戦術、個人技の向上は、4年前の同じ大会を振り返ると、驚くばかりだ。

 4年前のアメリカ大会では、まだボールも満足に蹴れないチームや、選手もいない、ではなかったが、今年は、走るスピードが男子並みになり、ピッチいっぱいにロング・パスも自在に蹴れるほど、たくましく、鮮やかになった。

 上海の紅口サッカー場は、収容3万人の専用サッカー場で、近代的な施設は、日本のJリーグのどのスタジアムにもない、見事なものだった。

 しかし、6月に芝生を植え込んだばかりで根付きが悪く、芝生がめくれてしまう。その中で、日本を除くドイツ、イングランド、アルゼンチンは、みな平然とプレーしていた。

 みんな足腰が頑丈で、良く鍛えられており、「ピッチが悪い」と不満をもらしていたのは日本しかなかった。

 力強く踏ん張り、正確なキックを、この悪い芝生でも平然と蹴れる。これが、決勝トーナメントへ進むチームの基本ラインだ。

 杭州の堅い芝生へ移り、日本は、やっといつものプレーができるようになったが、ドイツの圧倒的なパワーの前には、なすすべもなかった。この、歴然たるフィジカルの差。鍛えられた個人技にいつ追いつけるのか、世界のレベルの高さには言葉もなかった。「惜敗、惜しかった」という声があるが、まさに、段違いの力の差があったのを、見逃してはならない。

 なぜこうなるのか、次に、その問題点を提議したい。

 雨中の激闘で、アメリカと2−2のドローに持ち込んだ北朝鮮の快足ぶり、大型のアメリカに一歩も譲らなかった試合運び、体力の強さは、世界を驚かせた。北朝鮮は、4年前の大会でも、今回と同じ1次リーグでアメリカと対戦し、0ー3で完敗。技術的にも見劣りしていただけに、その完成度は見事なものだった。当時と比べて、小柄でも、フィジカルは負けなかった。このたくましさが大きい。

 同じ1次リーグA組だったドイツ、イングランド、アルゼンチンと、日本との違いは、この3か国の主力選手は、いずれも母国のトップ・リーグの名門クラブに所属し、組織だった育成を続けていることに注目したい。イングランドが、欧州予選で強敵フランスを抜いて、久々の本大会出場を決めたのも、アーセナル、エバートンなど、プレミア・リーグの組織下で十分練習し、選び抜かれた選手を集めた努力が実ったものだ。

 日本でJリーグの下部組織に入り、トップ・チームの影響を受けているのは、浦和レッズ傘下の浦和レッズレディースしかない。日テレ・ベレーザは、一応、東京Vの下部組織だが、緊密交流とは言いがたい環境。「Jリーグは、もっと女子に手を貸せ」と言われて久しいが、女子リーグが孤立化したままでは、とても、世界に追いつくチーム造りは不可能だろう。

 北朝鮮は、メダルに最も近いスポーツ、として、女子サッカー強化に国家政策で力を注ぎ、全国から、フィジカルの優秀な選手を選抜して、鍛え上げている。今や、日本は北朝鮮には、とても歯が立たない。

 4年前、日本が6−0で楽勝したアルゼンチンは、ボカジュニアーズに9人が所属。ドイツ戦の大敗にもめげず、チームは一変。日本と一歩も引け劣らぬ好試合を見せた。ワールドユース・ロシア大会にも出場した若手をそろえ、平均年齢22・5歳は、大会参加チームでは一番若い。次の大会は、日本をしのぐのではないか、という潜在能力を無視できない。

 日本は平均身長163a。大会一のスモール・チーム。ガーナ(164a)、 アルゼンチン(165a)のちびっ子3か国は、すべて敗れた。大型化へ進む世界の流れの中、U15から始めた日本の育成は、まだ、スタートしたばかり。日本の大型選手は、ほとんどバレーボール、バスケットボールへ進んでしまう。彼女らが、サッカーに目を向けてくれる日は来るのだろうか。

 チームの中心選手が、30代にさしかかる日本の今後は、アジア予選さえ突破できないのではないか、と私は恐れる。

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