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vol.344-1(2007年3月20日発行)
岡崎 満義 /ジャーナリスト
96年前の「野球とその害毒」論

 今やスポーツは年中、途切れることなくつづいて、私たちを大いに楽しませてくれるが、やはり3月は特別な季節だ。プロ野球オープン戦、大相撲大阪場所、Jリーグ開幕、選抜高校野球、そしてプロ野球開幕・・・と、メジャーなスポーツが華やかにくりひろげられる。

 「松坂が立つ球春のど真ん中」(西海市・前田一草)という俳句が、3月19日付朝日新聞の朝日俳壇に載っていた。ワクワクするような気持が、よく伝わってくる。正岡子規の「いまやかの三つのベースに人満ちてそぞろに胸のうち騒ぐかな」という短歌が、春になるときまって思い出される。野球は正岡子規や高浜虚子といった文人が愛したスポーツ、自分でバットを握り、ボールを投げただけあって、伝統的に俳句や短歌によくうたわれているように思う。

 それにしても、西武ライオンズの金まみれスカウト戦術、口うらあわせの隠蔽工作が発覚したのにはあきれた。中学、高校時代から才能を認められた少年たちには、札束攻勢がかけられるという。スポーツ界も今や拝金主義がまかり通る時代だ。大人たちは程度の差こそあれ、みんなこの病気にかかっているから、この病気から少年たちを守るのは、容易なことではない。

 今から96年前、明治44年に朝日新聞が「野球とその害毒」というテーマで、多くの教育者を動員して、大キャンペーンを行なっている。

 「近年、野球の流行盛なるにしたがひて弊風百出し、青年子弟を誤ること多きを以て、本紙はしばしばその真相を記して、父兄に供する所ありたり。しかるに野球に狂せる一派の人々は、本紙の記事が己に便ならざるをもって、種々卑劣なる手段をもって、本社に妨害をなし、あるひは担当記者に対して迫害を加へんとする。しかれども本社が青年の前途に対する忠実なる憂慮はこれによって、ますます切ならざるをえず」と堂々害毒排除を宣言、野球がいかに若者に対して害毒となるかを、著名人に語らせている。

 著書『武士道』で、日本文化を欧欧世界に紹介した、当時一高の校長だった新渡戸稲造は「野球という遊戯は、悪くいえば巾着切の遊戯、あいてをつねにペテンにかけよう、計略に陥れよう、ベースを盗もうなどと、眼を四方八方に配り、神経を鋭くしてやる遊びである。・・・最も憂うべきことは、私立はもちろんのこと、官公立の学校といえども、選手の試験に手加減をすることがありうることである。・・・」

 富国強兵のために、質実剛健な青年を育成するためには、野球というこすっからいスポーツはよくない、というわけだ。野球に熱中しすぎて、文武両道が行なわれない、というのである。

 乃木希典・学習院院長も「対抗試合のごときは、勝負に熱中したり、またあまり長い時間をそれに費やす様のことがあり、その他弊害も伴うと見たので禁止してしまった」と述べている。

 それから25年後の昭和11年、日本にプロ野球がスタートしたとき、学生野球の父・飛田穂州は「日本の野球を今日あるものとしたわれらが愛敬する先人球士の精神というものは、まことに真摯そのものであって、血を涙を汗をその球心に注ぎ込んでいる。実に気魄のすべてを鋳込んで、日本の武士道に混和せしめ、今日いうところの野球道を開拓した。その吐血的足跡を思うならば、決してこれを玩弄視し見世物視してはならないと思う」とプロ化への憂慮を表明している。

 それからさらに70年が過ぎて、野球は燗熟期を迎えている。「野球(スポーツ)とその害毒」論の続編が、新たに書かれなければならない時代になったのかもしれない。

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