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vol.359-2(2007年7月5日発行)
岡崎 満義 /ジャーナリスト
ビーナス・ウィリアムズ選手に拍手

 ウィンブルドン・テニス、日本女子選手の試合を中心に深夜のテレビでよく見た。惜しかったのは、森上亜希子選手で、強豪ビーナス・ウィリアムズ(米)を土壇場まで追い込みながら、最後は経験の差で振り切られた。あと一歩、ダメ押しが足りなかった。ダブルフォルトを14回もやりながら、結局は勝利をものにするあたりは、やはり力の差、かつての女王ウィリアムズの貫禄というものだろう。数年前の爆発力、男子顔負けのド迫力はややカゲをひそめたようだが、ムダな動き、力を省いたシンプル、省エネ的なかたちが前面に出てきたように見えた。

 このビーナス・ウィリアムズが8強を狙って、人気のシャラポワ選手と対戦した試合は見応えがあった。6−1で第一セットはウィリアムズ、第二セットが1−1となったところで、ウィンブルドン名物の雨で2時間ほど中断、再開後の第3ゲームは13回のジュースを繰り返す大熱戦となった。粘った末にシャラポワがとったが、BS放送の解説者・伊達公子さんも「久しぶりに見る熱のこもったストローク戦」と絶賛した。この第3ゲームだけで22分30秒を要した、まさに凄絶なストローク戦だった。2人とも1球ごとに大声を発しながら、コートぎりぎりに深いボールを打っていた。むずかしい球も拾い、長いラリーがつづいた。足をすべらせて転んだV・ウィリアムズが、それでもラケットを精いっぱいに伸ばして球に当てようとした姿に「すごい気迫ですね」と伊達さんも感嘆した。

 結局はこの気迫が、わずかにシャラポワを上回っていたのかもしれない。勝利の女神はV・ウィリアムズにほほえんだ。それにしても今年は、雨の中断が例年より多いような気がする。ゲームの中断で勝敗の流れは微妙に変わる。どの選手も気にしないわけにはいかないだろう。いつ雨があがるかわからないのを待ちつづけるのは、辛いことだろう。かつて、同じウィンブルドンで伊達公子さんがシュティフィ・グラフを追い詰めながら、雨により試合は翌日に持ちこされ、気分一新した、グラフに存分に実力発揮され、してやられたことを思い出す。天はどちらに味方するのか。雨もウィンブルドンを巧妙に演出している。雨はウィンブルドン・テニスの魅力のひとつ、といえるのかもしれない。屋根付きのドーム・コートにしないところが、いかにもイギリスらしい。スポーツは自然の中で、ということだろう。

 ときどき画面にうつる選手たちの家族の姿も興味をひく。シャラポワの父親がサングラスをして、ややかたい表情で、アゴに手を当てて“考える人”になっているのに対して、V・ウィリアムズの父親のヒゲもじゃの顔にはいつも微笑が浮かんでいて、娘の勝敗よりもゲームそのものの流れを楽しんでいるように見える。すでに、これまでいくつも優勝を重ねてきたのだから、今はゲームを楽しむことを第1に娘に期待しているのかもしれない。

 そういえば、数年前、日の出の勢いで勝ちはじめた娘V・ウィリアムズについて、「いつまでもテニスをつづけるわけにはいかない。いつまでも勝ちつづけることはできない。娘には将来、デザイナーを目指してもらいたい」と話していたのを覚えている。見るからに陽気な黒人父娘の夢はかなうだろうか。水泳、ゴルフ、フィギュア・スケート、スキー・・・などと並んで、黒人女子選手の少ないテニス界に、ビーナス・ウィリアムズ、セリーナ・ウィリアムズ姉妹の存在は大きい。

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