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vol.368-1(2007年9月 5日発行)
岡崎 満義 /ジャーナリスト
「けいれん」続出の世界陸上を見て

 人間の体のふしぎさを、あらためて考えさせられた。大阪で開かれた世界陸上で、日本の有力選手が次々に、競技中にけいれんを起こして予選落ちしていった。棒高跳びの沢野、200mの末續、走り高跳びの醍醐など。とくに沢野は1回目の試技でポールを握った手を滑らせたあと、2回目は足、3回目は殆ど全身がけいれんしたようで、とても競技ができるような状態ではなかった。

 「けいれんに見舞われる選手が悪夢のように続いたのが計算外。原因については今は、はっきり言えない」(高野進監督)

 「高野監督によると、脱水症状を見分けるために尿の色をチェックしたり、電解質を多く含んだドリンクを飲んだりするなど対策は講じた、という。今後は大会前と大会中の選手の血液成分などを調べて原因を探る」(9月4日付朝日新聞)

 地元開催がかえって精神的な負担になったのかもしれない。暑さ対策は十分に考えられていたようだが、選手の体は本人や周りの予想を越えて、過反応してしまったのか。

 最近のNHKTVの「スポーツ大陸」で、女子走り幅跳びの池田久美子選手のトレーニングぶりを追いかけていた。7mを狙うと言っていた池田も世界陸上では、まさかの予選落ちだった。練習の成果で助走のスピードが一段と増して、これまで以上に跳べるはずだったが、こんどは踏切りのタイミングがどうしてもうまく合わなくて、苦しんでいる姿がうつし出されていた。川本監督との息の合った2人3脚トレーニングがあっても、簡単には助走スピードが跳躍力に結びつかない。助走スピードと踏切り時の微妙な体のバランスが一度こわれると、容易にもとに戻らないのだ。

 同じ日、日本テレビでは、パイレーツを解雇された桑田投手に密着取材していた。数々のハンディを乗り越えて、6月にメジャー昇格をはたした頃、桑田は右目が見えなくなっていた、という。マウンドの上から捕手のサインが見えなかった、というから驚く。解雇されて、家族とゆっくりアメリカ生活を楽しめるようになると、右目はもと通り見えるようになったようだ。桑田自身「自分で気付かないうちに、大きなストレスがあったんでしょうね」と話していた。39歳でのメジャー挑戦、オープン戦での大怪我・・・などを過ごしての昇格には、恐るべきストレスがかかっており、それが右目に出たのだろう。

 KKコンビといわれたもう1人のK、清原選手が、一時、プロレスラーと一緒にトレーニングをして、上半身を筋骨隆々、まるで本物のレスラーのようになったことを覚えている。その後、清原はその上半身にふさわしいバッティングをしたようには思えなかった。むしろ、上半身と下半身のバランスが崩れて、以後、足の怪我がふえ、バッティングは下降線を描いたように思う。それは単にスポーツ選手の加齢からくるもの、というより、体の微妙なバランスが、上半身を鍛えすぎたことによって失われたように見えた。

 一流のアスリートの体は、たしかに強い。長年鍛えられた体が弱いはずはない。しかし怪我はつきものだ。怪我をひきおこすほどにトレーニングを積み、鍛えるのだから、ちょっと歯車が狂うと、怪我につながる。どんな体の強さのレベルにも、それなりのバランスがあるのだろう。そのバランス感覚が、なかなかつかめないのではないか。体を鍛え、磨ぎ澄ませれば澄ませるほど、いわば精巧なガラス製の機械のようになって、思わぬ故障が起こるのではないか。

 ほんとうに自分の体を知る、というのはむずかしいことだ。自分を知る、ということが古代ギリシャ以来、永久に哲学的な命題とされつづけているのも、さもありなんである。

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