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vol.338-2(2007年2月9日発行)
滝口 隆司 /毎日新聞大阪本社運動部記者
選手ブログ解禁の是非

 国際オリンピック委員会(IOC)が、五輪期間中の選手のブログ(インターネットでの日記風サイト)活動を認めるかどうかを検討するという。これにどんな意味があるのか、メディアの立場としてはじっくりと考える必要があると思う。

 五輪憲章では「オリンピック競技大会のメディアの報道」に関する細則で以下のような決まりがある。

 「メディアとして資格認定を受けたものだけが、記者、リポーター、その他全てのメディアの資格で活動することができる。いかなる事情があっても、オリンピック競技大会の開催期間を通じ、いかなる選手、コーチ、役員、プレス・アタッシェもしくはいかなる他の資格認定を受けた参加者も、記者あるいはその他のいかなるメディアとしての活動をすることはできない」

 簡単にいえば、選手は五輪期間中のジャーナリスト活動を禁じられている。

 ブログという新しい表現手法が世界的に広まり、多くのトップ選手が自分のコメントをそこへ書き込むようになってきた。「日記風なのだから、目くじらを立てるほどではない。選手にも表現の自由はある」とIOCは単純に考え始めているのだろうか。

 確かに五輪期間中だけ禁じるというのも不自然ではある。ただ、ブログ活動を解禁することは簡単なように見えて、それに付随する影響は小さくないと思える。

 世界のトップ選手がブログで発する言葉は大きな価値を持ち、そこに商業的な利益が発生することは十分に考えられる。日本のトップ選手を見ても、自分でブログを開設しているというよりは、エージェント会社が開いたサイトに選手が投稿していようなスタイルのものが目立つ。

 そんなことを考えると、まずは選手のスポンサーと五輪の公式スポンサーの兼ね合いが問題となるだろう。五輪の協賛をしなくとも、1人のアスリートを支援するだけで大きな広告PRができると企業は考えるに違いない。そうしたビジネスの権利関係は簡単にクリアできるものではない。

 われわれメディアにとっても、選手のブログには「嫉妬」を感じることが多い。記者会見では何もしゃべらなかったのに、ブログにはこんな面白い話を選手が直接書いている。そんなケースがここ数年、非常に増えてきている。たとえば、サッカーの日本代表、中田英寿の現役引退が分かったのは、メディアのスクープでも記者会見の場でもなかった。ネット上の自分のサイトで中田は自分の思いをつづり、メディアには一言も述べずに「自分探しの旅」などという表現で引退を発表したのだった。

 時代の流れといってしまえば、それまでかも知れない。ただ、選手はますますメディアには口を開いてくれなくなるのか、と考えるとやるせない。それだけメディアの信頼度が落ちたからか。ネットを表現の場としたアスリートとファンの「直接対話」が進む。仲介役であるメディアはもはや歯ぎしりするしかないのか。

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