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vol.359-3(2007年7月6日発行)
滝口 隆司 /毎日新聞大阪本社運動部記者
ソチ決定に見える危険な兆候

 2014年冬季五輪の開催地に、黒海に面したロシア南部のリゾート地、ソチが決まった。ザルツブルク(オーストリア)、平昌(韓国)との争いは混戦といわれていたが、3都市の中ではソチの評価は決して高くはなかった。しかし、その最大の決め手が、プーチン大統領の積極的な国際オリンピック委員会(IOC)へのアピールだったとされている。

 12年ロンドン五輪の決定時も、英国・ブレア首相がIOC総会の開かれたシンガポールを電撃訪問したことが決め手になったといわれ、今回も国家首脳の力、いわば国家支援が勝敗を大きく左右したということになる。オーストリアのグーゼンバウアー首相も韓国の盧武鉉大統領もIOC総会のあったグアテマラに入っていたが、ロシア大統領の訪問ほどのインパクトは持たなかったのだろう。これは何を意味するのか。

 ザルツブルクの招致関係者は、小国での五輪開催はもはや無理なのか、と落胆しているようだ。五輪が肥大化してしまい、国家の積極介入がなければ、開催都市としては国際的に信用されない時代になったということかも知れない。施設整備だけでなく、国際テロに対する警備費用も膨大になる。ただ、それを仕方がないと見るかどうかはIOCの今後の姿勢にかかってくる。

 ソチの招致を財政的に陰で支えているのは、ガスプロムという世界最大の天然ガス会社とされる。政府が多数の株式を保有する準国営企業であり、ロシアは欧州へのパイプラインを握ることにより、欧州への影響力を強めようとしている。そのパイプラインの多くがソチのある黒海周辺を通っている。東西冷戦の終結、旧ソ連の崩壊後、世界的な影響力が弱まるロシアだが、天然ガスというエネルギーをもって「強いロシア」の復活にかけようとしているのだろう。プーチン大統領は来年5月に任期切れとなり、現時点では退任する予定といわれているが、再び大統領選に出馬するという観測もある。こうした政治の流れの延長線上に、2014年冬季五輪があると見ていいのではないか。

 平昌に決まれば、16年夏季五輪に立候補を表明している東京には不利という見方は強かった。アジアでの冬夏連続開催はありえないという理由からだ。しかし、平昌落選が東京に有利に働くものでもないようだ。東京都の支援はあっても、国家が積極支援の姿勢を見せているわけではない。グアテマラから伝わってくる東京の招致関係者のコメントにもどこか不安なニュアンスが出ている。

 IOC幹部の中には、現在の招致手続きの見直しを求める声もあるという。国際政治の力によって、開催地が決まるという流れが出来つつある今、五輪と政治、スポーツと政治の関係を改めて考える時期に来ている。ロシアでの五輪開催は、旧ソ連時代の1980年夏のモスクワ以来となる。東西冷戦にほんろうされ、西側諸国のボイコットで五輪が分断されたあの大会をもう一度、思い返してみるべきだ。

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