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vol.371-2(2007年9月28日発行)
滝口 隆司 /毎日新聞大阪本社運動部記者
なでしこJAPANはよくやった!

 中国で開催されている女子サッカーのワールドカップで日本代表「なでしこJAPAN」のとった行動が、中国国内で思わぬ波紋を呼んでいる。17日に杭州で行われたドイツ戦に敗れた後、彼女たちは「ARIGATO 謝謝 CHINA」と書かれた横断幕を持って観客に頭を下げた。試合中は、反日感情の強い中国人の観客からブーイングを受け続けていたという。折しも試合の翌日は満州事変(1931年)の発端となった柳条湖事件が起きた日。その影響も少なからずあっただろう。

 それにも関わらず、感謝の気持ちを前面に表した日本代表の行動を、四川省の成都商報(電子版)が写真付きで報じ、これをきっかけにインターネットではいろんな議論が沸き起こっているそうだ。共同通信の配信記事によると、中国網というサイトには「最大の敗者は日本選手ではなく(マナーの悪い)観客だ」という書き込みがあるなど、ブーイングを続けた観客に反省を促す声が出ているという。一方、「日本の宣伝活動に感動するのは中国の恥だ」などという意見も挙がっている。

 2004年に北京で行われた男子のアジアカップ決勝は、日本と中国との顔合わせだった。試合は日本が勝ったが、その後、反日感情を持った中国人サポーターが暴徒化し、競技場から出ようとした日本の公使の車のガラスを割ったり、「日の丸」を燃やしたりする騒ぎがあった。それほどまでに露骨な反日行動が日本のスポーツ界に向けられたことはない。

 日本サッカー協会の関係者は、今回もアジアカップと同じ事態が起きることを想定していたのかも知れない。あのような横断幕は当然、中国人の感情を考えて事前に準備したものに違いない。だれのアイデアかは知らないが、そこには政治的メッセージを入れるのではなく、シンプルに「謝謝」とホスト国に対する感謝の気持ちだけを表した。それが中国人の気持ちを少し揺さぶってみせた。

 来年は北京五輪の年である。中国が開催国としてどんな運営を見せるのか。心配な点も多々あるが、日本にとって何よりの懸念は中国国民の反日感情をどう受け止められるか。日本スポーツ界やわれわれメディアの側も「メダル、メダル」の騒ぎに引っ張られがちだ。だが、国際試合の意義は勝ち負けを競うことだけではない。文化の違う国々が戦う中で友好の気持ちが芽生える。政治に出来ない架け橋が、スポーツによって出来ることもある。それが国際平和を目指す「五輪運動」の趣旨である。

 なでしこJAPANは1次リーグ敗退となって帰国した。しかし、彼女たちがやってみせたことは、強豪を破るよりも価値あることだった、と私は思う。不安定な国際情勢が続く中で、スポーツ界は何ができるのか。深く考えさせられるテーマでもある。

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