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vol.372-2(2007年10月5日発行)
滝口 隆司 /毎日新聞大阪本社運動部記者
ドラフト入団拒否は過去の話?

 今年のプロ野球、高校生ドラフトは大阪桐蔭・中田翔、仙台育英・佐藤由規、成田・唐川侑己の「BIG3」の行方が注目された。いずれも複数球団競合の末、中田は日本ハム、佐藤はヤクルト、唐川はロッテに指名された。3人はすぐに入団の意思を表明、いわば「無風のドラフト」となった。

 ドラフト当日の3日、私は大阪桐蔭の記者会見場にいた。午後2時半、会見場に姿を現した中田に中継局のアナウンサーが抽選結果の感想を求めると、中田は即座に「日本ハムに決まったので、そこで一生懸命やるだけです」と答えた。中田の会見が続く間、会場に設置されたテレビでは他の選手の状況も映し出されていた。仙台育英の会見場に画面が変わると、佐藤が泣いている。しかし、音声が消されているのでなぜ涙を流しているのか分からない。ひょっとして入団拒否か、と思ったら、家族への思いを聞かれて感極まったという。佐藤もヤクルト入団に前向きな発言をし、唐川も地元千葉ロッテの指名に「小さい頃からマリンスタジアムによく行った」と喜びを隠さず、カメラマンの求めに応じてさっそくロッテのユニホームに袖を通した。

 この3人の実力なら、希望球団を前もって公言し、それ以外の球団なら拒否ということもあり得ただろう。ドラフトの歴史を見れば、甲子園を沸かせたスターたちが希望球団以外に指名され、大学進学や浪人の道を選んでいる。しかし、今年のBIG3は全くそんなそぶりを見せなかった。

 昨年もそうだった。駒大苫小牧の田中将大は日本ハムを望んでいるようだったが、楽天が指名権を獲得すると、迷わず入団を表明。プロの世界に飛び込んで、今年は2ケタ勝利を挙げた。八重山商工の大嶺祐太も、希望のソフトバンクではなく、予想外のロッテに指名されたが、しばらく考えた末に入団の道を選んだ。そういう風潮を見ていると、以前のように入団拒否する選手がいなくなってきたのはなぜか? という疑問は沸いてくる。

 9年たてば、フリーエージェントで他球団に移ることもできる。FA制度の定着も一つの要因だろう。しかし、もっと別の理由があるようにも思える。日本ハムの印象を聞かれた中田が「連覇している強いチーム」と答えたように、かつての弱小球団が力を備え、各チーム間の戦力バランスがとれてきたからではないか。日本ハム、楽天など地方に球団が拡散し、それぞれが根強いファンを獲得していることも大きい。巨人だけが巨大戦力と潤沢な資金を持ち、選手の希望球団に大きな影響を与えていた時代は過去のものとなったといえる。今年のセ・リーグは巨人が5年ぶりに優勝したとはいえ、最後まで中日、阪神とデッドヒートを繰り広げた。

 日本テレビは巨人が優勝を決めた試合を放送せず、冷たい対応を見せたが、これに疑問の声が上がったところを見ると、ファンは決してプロ野球をつまらないものとは見ていない。そして、球児たちも特定球団ではなく、戦力がきっ抗してきたプロ野球全体に魅力を感じ始めているのではないか。

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