スポーツネットワーク
topページへ
スポーツバンクへ
オリジナルコラムへ
vol.375-3(2007年10月26日発行)
滝口 隆司 /毎日新聞大阪本社運動部記者
スポーツ界も「偽装」だらけではないか

 北海道の食肉加工会社「ミートホープ」の元社長らが牛ミンチの偽装事件で逮捕された。三重県では伊勢の名物として知られる「赤福」が製造年月日を偽り、消費期限切れとなった売れ残り商品のあんと餅を再利用していた事実が発覚。秋田県では鶏肉加工会社「比内鶏」が日本3大地鶏と呼ばれる比内地鶏の名称を使い、廃鶏肉を使った薫製を売っていた。最近の新聞社会面は相次ぐ「偽装」で大きなスペースを割いている。

 なぜこんなことを冒頭に書いたのかといえば、社会の姿を映し出すかのように、スポーツ界からの「偽装」も消えてなくならないからだ。

 世間をにぎわせているボクシングの亀田大毅の反則問題もそうだった。映像で亀田大のサミング(グローブの親指を相手の目に入れる反則行為)を見たが、レフェリーに分からないような体勢で王者・内藤大助の目を狙っていた。セコンドについた兄の興毅が「ひじでもいいから目に入れろ」とサミングを指示した疑いが持ち上がり、試合後、興毅は「あれは亀田家のボクシング用語。ヒジを上げてしっかりガードして目の位置を狙えという意味。今のグローブはサミング出来へんように親指のところが縫いつけられてるから、サミングなんて出来るわけあらへん」とコメント。しかし、その発言を額面通りに受け止める人は少なかっただろう。大毅はサミングに加え、急所を狙うローブローも犯していた。故意に反則行為に及んでいた疑いはきわめて強い。

 亀田一家の騒動は、今のスポーツ界の一断面に過ぎないと思える。他の競技でも「偽装」のプレーに出くわすことは多い。サッカーでは相手に倒されたように見せかけて自ら倒れ、相手に反則を与えようとする「シミュレーション」の行為をしばしば目にする。野球では内角速球にひじを突き出してボールに触れ、痛がるふりをしてデッドボールを訴える選手がいる。柔道では、柔道着を相手につかませにくくするために、ろうや石鹸を袖や背中に塗っている選手がいるという。いずれも「偽装」的な行為と言わざるを得ない。その最たるものはドーピングであり、検出されにくい禁止薬物が次々と開発され、検査側とのイタチごっこが続いている。

 共通して根底にあるのは「ばれなければ構わない」の精神だろう。スポーツに関して言えば、偽装の先には「手段はどうであれ、勝てばいい」の勝利至上主義がある。

 野球の指導者講習会を取材したことがあるが、講習内容は野球技術とスポーツ医科学が中心だった。それはもちろん大事だ。しかし、スポーツマンシップやフェアプレーの何たるかも分からず、興味も持たず、「勝てばいい」「結果がすべて」で子供に偽装行為を教えている指導者が少なくない。指導者養成には「スポーツの精神とは何か」の視点が絶対不可欠だ。亀田兄弟の父、史郎氏は26日の記者会見を興毅に任せて姿を現さなかったが、指導者として、スポーツの精神を何と考えていたのか。

筆者プロフィール
滝口氏バックナンバー
SAバックナンバーリスト
          
無料購読お申し込み

advantage
adavan登録はこちら
メール配信先の変更
(登録アドレスを明記)
ご意見・ご要望

Copyright (C) 2004 Sports Design Institute All Right Reserved
本サイトに掲載の記事・写真・イラストレーションの無断転載を禁じます。  →ご利用条件