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vol.376-3(2007年11月2日発行)
滝口 隆司 /毎日新聞大阪本社運動部記者
「スポーツ立国調査会」の発足をどう読むか

 自民党が「スポーツ立国調査会」という組織を発足させ、10月30日に初会合を開いた。会長にはクレー射撃で1976年モントリオール五輪に出場した麻生太郎・党前幹事長、最高顧問には日本体育協会の会長も務める森喜朗・元首相が就任。09年度にはスポーツ省(庁)を新設する方針で検討を始めるという。政治がスポーツを積極支援するといえば聞こえはいいが、近年、スポーツへの急速な政治の近寄りが目立つ。スポーツ界は慎重に見極める必要があるだろう。

 日本の主な競技団体を管轄してきたのは、言うに及ばず文部科学省だ。日本のスポーツが学校中心に発展してきた歴史的経緯を考えると、それが自然の成り行きだったのかも知れない。しかし、スポーツが教育の範囲だけに収まるものではなくなってきた。

 経済に関係すれば、経済産業省の分野になるし、健康に関係すれば、厚生労働省の管轄になる。トップ選手も学校スポーツ以外で育成されるケースが多くなった。90年代後半からバブル崩壊の影響を受けて国内の競技環境は揺らいだ。しかし、国家がスポーツの環境整備に積極的に取り組んでいるとはいえず、国体開催県に巨大施設が整備されることはあっても、底辺のスポーツまで目が向けられているわけではない。スポーツ振興のためといって導入されたサッカーくじも成果が出ていないのが現状だ。

 そういう時代背景をみれば、スポーツ省(庁)創設の声が挙がるのも不思議ではない。そこで自民党は何を志向しているのか。

 調査会は、国際大会で活躍できる競技者育成や東京が誘致を表明している2016年夏季五輪の政府保証のほか、国家がスポーツ振興に責務を負うことを明記するスポーツ振興法の改正、スポーツ対策関連予算の引き揚げなどを目標に掲げているという。そんな中で気になる項目があった。プロとアマを問わず、競技団体を統括した「日本スポーツコミッション」という組織を発足させようと考えている点だ。国内のすべての団体を国家の傘の下に入れようという構想である。

 国際オリンピック委員会(IOC)の副会長を務めた故・清川正二氏は著書「スポーツと政治―オリンピックとボイコット問題の視点」(ベースボール・マガジン社)の中で、こんなことを書いている。

 「近代オリンピックを復活したクーベルタンはつねに広大な視野をもった人であったが、創設の当初から『スポーツと政治の分離』を旗印に掲げ、スポーツのことはスポーツ人だけで運営する『スポーツの自立独立性』を運営の根本方針としてきた」

 しかし、五輪が肥大化し、世界的な影響力を持つようになって、政治との関係は全否定できなくなった。清川さんはそれも理解しつつ、こう述べている。

 「政治が社会のあらゆる分野に強力に介入している時代になると、スポーツだけが政治に無縁で自主独立することは次第に難しくなってきた。そこでIOCは政治家たちに対して『スポーツは政治と併存を願うが、政治がスポーツに接するには節度をもって接してもらいたい』と言っているのである」

 この文章のキーワードは「節度」である。スポーツ界の自主独立を尊重しながら、政治がスポーツを支援する。そのバランスが崩れれば、政治がスポーツを支配下に置いて利用する危険な時代が到来するだろう。スポーツ界も政界も「節度」の境界線に敏感であるべきだ。

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