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vol.384-2(2008年1月18日発行)
五味 幹男 /スポーツライター
選手権の「試合」に感じた寂しさ

 今年もまた冬の選手権が終わり、高校サッカーの1年が終わった。振り返れば、流通経済大柏高校が高円宮杯と選手権の2冠、市立船橋高校がインターハイ制覇と、千葉一色に塗られた1年となった。

 それにしても流経大柏の選手権での戦いは見事だった。市立船橋との県予選決勝の日程がずれ込み、調整の難しさというハンデがあったものの、それを感じさせることなく前評判どおりの力を発揮して栄冠を勝ちとった。特に、得点王になった大前元紀が「ゴール」という結果を出し始め、硬さもとれた準決勝以降は「王者」という称号が相応しい戦いぶりだった。

 大会全体が盛り上がった理由は他にもある。まず0−0でのPK戦が少なかった。両者が得点を取り合った末のPK戦と0−0でのPK戦は、ゴールへの意識という部分で意味合いが大きく異なる。0−0でのPK戦が多かった昨年の第85回大会は観る側に不完全燃焼の思いが募った大会だった。

 選手個々の技術レベル、戦術理解レベルが高かったことも大会を引き締めた。クリアボールを簡単に蹴り出さない。サイドチェンジはお手のもの。さらにその難しいボールを何事もなくトラップして次のプレーに移行していく姿にも高校サッカー界全体のボトムアップがうかがえた。これについてはクラブチームへの人材流出という向かい風の中でもたゆまぬ努力を続けてきた指導者、関係者に敬意を表したい。実際のところ普段それほどサッカーを観ない人の「Jリーグより上手いんじゃないの」という素直な感想に対しても簡単に反論できず、唸るしかなかった場面がたくさんあった。

 だが、胸を躍らせながら各試合を楽んでいた一方で、不思議というか、物足りなさを感じる面もあった。それはチームの多様性についてだ。出場したすべてのチームを細かく観察したわけではないが、総じていえば、長短のパスを織り交ぜながら積極的に人とボールがピッチ全体をスピーディーに動いていく、というどこか似たり寄ったりのサッカーを志向するチームが多かったように思えた。

 この傾向は試合という観点からみると、決していいものとはいえない。同じタイプのチーム同士の試合は往々にして純粋な力比べになってしまうことが多い。つまり、戦術の成熟レベルが同等であれば、あとは選手個々の能力によって勝敗が決しやすくなってしまうわけだ。相撲にたとえれば完全なる四つ相撲。だが、サッカーとは個人が絶対的なものを追及していく記録競技ではなく、相手ありきの競技であり、チームスポーツである。9割がた負けでも残りの1割の強い部分をぶつけて勝利をもぎ取る、個々の能力では劣っても互いに補完することで全体として勝つ、ということができるのがサッカーの最大の魅力ではないだろうか。

 同タイプのチームが集った今大会には、相手の力を利用する舞の海も突っ張りだけで押し通そうとする曙もいなかった。みんながみんな千代の富士になろうとしていた。

 そう考えれば、流経大柏と藤枝東の決勝進出は妥当だった。藤枝東の服部康雄監督が、旋風を起した都立三鷹との試合で「失点は考えていなかった」といったように、終わる前に勝敗が決していた試合が少なくなかった。同じことは準決勝にもいえる。高川学園は確かに中盤までのクオリティは藤枝東に劣らなかったが、バイタルエリアでの競り合いでは特にフィジカルの強さにおいて一歩も二歩も及ばなかった。それでも同じスタイルを貫き通そうとする高川学園には途中からゴールの予感が失われてしまっていた。

 そして、そのロジックに従えば流経大柏の優勝も必然といえば必然だった。守備面はほぼ互角。しかし、流経大柏には高川学園にはない個の力があった。一方で藤枝東は流経大柏より明らかに劣る高川学園の守備の前に1点しか取れていない。確かにこの世代には「勢い」という不確定要素はあるが、ここまで完全な四つ相撲になってしまっては、それが入り込む余地はほとんどない。インターハイで流経大柏に負けて以来、高校生相手には無敗だった藤枝東が選手権でまた流経大柏に負けてしまったことも「純粋な力比べ」を物語る一端かもしれない。

 方向性は正しいといえるのだろう。なぜなら、彼らが志向したスタイルこそは、日本サッカーを日本化するといったオシム前代表監督が唱えた「人もボールも動くサッカー」に他ならないからだ。無駄になるかもしれないエネルギーの浪費もいとわず、チーム全体がひとつの生き物のように躍動しながらボールを動かしていくサッカーは、やはり日本人の特性を活かしたものだと思えるし、何より観ていて小気味いい。

だが、多様性という部分で考えると、毛色の違うチームがもっとあってもよかった。今大会では、王者の流経大柏に対して守備を固めてカウンターだけを狙おうとするチームはなく、中盤での勝負を避けて前線へのハイボールで勝負しようとするチームもなかった。

 もちろん、そこには様々な制約がある。カウンターだけのチーム、前線の高さだけに頼ったチームではもはや県予選を突破できないのかもしれない。流経大柏の本田裕一郎監督がチームづくりについて「選手をみてスタイルを決める」といっていたように、限られた時間で限られた選手しか使えないという事情も高校サッカーにはある。

 しかし、それがわかっていてもなおチームの多様性が失われてしまっていることに一抹の寂しさを感じる。サッカーに正解はない。ならば、時代の主流から外れたスタイルを志向するチームがあってもいい。そこから「人もボールも動くサッカー」に妙味を効かせられる別種の個が生まれてくる可能性だってあるのだから。

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