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vol.428-1(2008年12月9日発行)
松原 明 /東京中日スポーツ報道部
「雄弁は金」

 念願のサッカーJ1に昇格した山形の小林伸二監督は、実に雄弁だ。話ぶりは丁寧で、分かりやすい。それに、質問者のレベルに合わせ、理解できるように話し、説得してゆく。常に、その話しぶりは一貫し、よどみなく、長い時間を掛けて説明する。今、Jリーグの監督で、これだけ、うまく話せる監督は少ない。

 プロ・サッカーの監督は難しい。自分の考えをいかにチーム、フロントに浸透させ、さらに、メディアを味方に付けるかに成否の手腕が問われる。満足に説明できないまま誤解を重ね、あるいは、選手にそっぽを向かれ、解任、辞任に追い込まれる人も少なくない。

 オシム監督は長年の国際経験を土台に、様々な寓話を聞かせ、選手もメディアも巻き込んしまうワザをみせたが、このテクニックは、だれも真似できない。

 最近辞任したあるクラブの監督は最初のコメントだけで、あとが続かず質問も途切れ、打ち切りになってしまうことも再三あった。自分の狙いを満足に説明できないのでは、だれも附いてこない。「いいか、分かるだろう」では、今の選手は納得しない。やがて離反し、チームはばらばらになる。J1で降下したクラブの監督は、みな、この話術の失敗が共通した遠因のようだ。

 小林監督は、長崎時代に国見高校で日本一になった小嶺忠敏監督に出会ったのが幸運だった。さらに、広島時代には、今西和男(現岐阜社長)、ハンス・オフト監督(現磐田監督)に影響を受け、大分、セレッソ、福岡の監督、フロントで浮き沈みの苦労を重ねた経験が、今、生きている。選手と一緒に走りながら交わす会話の対話方式は、様々な経験から生み出したものだ。

 「選手の心を開かないと、前進しない。自分から溶け込んでチームを作る」方式が、山形で再び花開いた。

 監督にはカリスマ性が必要だ。「あの人のためなら」という環境にしないと、波に乗れない。「この人の言うことは間違いない」と、信じてもらえば、乗り越えられる。これは、メディアのハンドリングも同じことだ。だから、時間がかかっても、質問は自分で打ち切りはしない。

 「きょう分かってもらえば、次も応援してもらえるはず」の遠大な構想は成功しつつある。

 戦力は決して一流とは言えない山形は、開幕当初は昇格してきた岐阜にも大敗したことがあった。この時も、守備の大事さを選手に納得させ、根気よく指導した。選手を立ち直らせるには、やはり話術が大切だった。
東北のライバル、仙台とは、自ら提案して両者のスタッフが合同の昼食会を開き、お互いに手を取りあって前進しよう、と話し合った。これも、協力関係を築けば、何かのプラスがある、と視野を広めた小林監督の大きさだ。
10日のJ1との入れ替え戦(対磐田。仙台)には、山形のスタッフ全員で仙台の応援に駆けつける。

 「これからは我慢強く、ハードワークで、1年間で落ちないように、残れるチームを作りたい」と話した。来年に備える、常に相手の目線に立っての小林流のトーキングはオフも休みはない。過去、大分や、セレッソで経験した、昇格、降下の歴史を踏まえ、3度目の正直で挑む2009年。小林話術が魔術を生むか、楽しみにしている。

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