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vol.387-1(2008年2月5日発行)

岡崎 満義 /ジャーナリスト
選手の可能性を発見する法

 スポーツを見る楽しさは、くりひろげられるゲームと見る側の間に、一期一会的な火花が飛び散る瞬間が、ときにあることだろう。スポーツは記録より記憶だ、と言われたりするのも、そんなことと関係があるだろう。それでもスポーツは数字(記録)と切りはなせない。数字にはウムを言わせない説得力があるからだ。イチローを語るとき、7年連続200安打以上という数字を、無視することはできない。

 2月3日夜9時総合テレビのNHKスペシャルで、'07年のワールドシリーズを制したボストン・レッドソックスをとり上げていたが、徹底的に数字にこだわる選手発掘法の紹介が面白かった。

 6年前にレッドソックスを買収してオーナーになったジョン・ヘンリー氏は、巨大マネーを操るヘッジファンド経営者で、「金融も野球もデータから始まる」「金融界では意味のある指標を見つけられなければ、いいトレーダーとはいえない」という哲学の持主。自らスコアブックをつけながら、野球観戦をする。子供の頃から野球のデータが好きだった。その哲学の信奉者がルキーノ球団社長であり、エプスタインGMであり、データ分析専門家のマックラッケン氏である。みんな客観的なデータを信頼する人材の集まりだ。

 松坂投手のようなスターに大金をつぎこんで獲得するためには、半面ではいかに安い俸給でいい選手を発掘するかが大切だという。その基礎資料となるのがデータである。

 しかも、そのためには世間に通用している常識的なデータではなく、データを分析し、新しい価値を構築して、選手の隠された可能性を発見しなければならない。レッドソックス独得の「新しい指標」を編み出しているのが、すこぶる興味深かった。

 今、ラミレス選手とクリーンアップを打つデービッド・オルティス選手。彼をツインズから獲得したときのこと。その頃のオルティスは長打力があり、四球も多かったものの、打率は0.234と低く、大した選手とは思われていなかった。安打÷打数=打率、よりももっといいデータはないか。レッドソックス流の「第2打率」が探求された。(塁打数−安打+四球+盗塁)÷打数、で、これで計算すると、オルティス選手の第2打率は0.376となった。見せかけの打率0.234でなく、隠れた第2打率0.376を発見して、オルティスの潜在力を確信し、安く獲得したのだ、という。

 また、'07年のア・リーグの中継ぎ最優秀投手となった岡島秀樹投手を獲得した時の新しい指標は、これまでの防御率=(自責点÷投球回数)×9、ではなく、三振÷四球、である。これは数字が大きくなるほど価値は高くなる、という。

 岡島投手は巨人時代('95〜'05)防御率は4.75、(三振÷四球)は2.95。この数字でも大リーグ平均の2.05を上回っているが、'06年日本ハム時代はこれが4.50と格段によくなった。これは買いだ! と、2年3憶円で“安く”買えた、という。長年にわたる数字は裏切らない、ということか。

 オルティス、岡島はみごとな成功例で、失敗例もあるのかもしれない。しかし、成功例が1つでも2つでもあれば、「新しい指標」をつくった意味がある。打者を見ないで、地面を見て投げるふしぎな投球フォームの投手、としてしか記憶されていなかった岡島投手に、新しい指標を適用して、隠された可能性を引き出したのは素晴らしい。岡島本人もこういうデータを見せられて、自分の潜在能力、それまでのコーチはもとより自分も知らなかった可能性に目覚めたと言えるだろう。うれしい自己発見だ。

 アメリカン・ドリームを裏打ちするデータ追求めの凄さを見る思いがする。日本球界にもこのような「新しい指標」追求の流れはあるのであろうか。

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