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vol.405-1(2008年6月10日発行)

岡崎 満義 /ジャーナリスト
岡井耀毅『昭和写真劇場』が面白い

 岡井耀毅さんが『昭和写真劇場』(税込2940円・成甲書房=03-3295-1687)という500ページを超える浩瀚(こうかん)な本を刊行した。「昭和」とあるが、中心は「戦後」である。戦後の目覚しい写真の発展ぶりを俯瞰(ふかん)した、素晴らしい本だ。時代が写真を高みに導いたのか、写真が時代をリードしたのか、いうにいわれぬ時代と写真の不思議な関係がほの見えて、何とも面白い。内容は八章に分けられ、「戦後史のなかの写真―時代の目撃者」、「戦後写真の原点―被爆体験の風化に抗して半世紀」、「戦後写真と『アサヒカメラ』」、「昭和写真とオプティミズム」、「ドキュメンタリー・フォトの系譜―その先駆者から現代まで」、「明治・大正・昭和三代のスポーツ写真」、「現代写真世界を歩く」、「追悼 昭和写真のフィナーレ」という章建てからも分かるように、昭和、戦後の80年の流れをグイとつかみとり、私たちの前に、混沌・多様な写真を系統だてて見せてくれる本になっている。

 岡井さんは1933年生まれ、朝日新聞社会部、外報部、「週刊朝日」副編集長、「アサヒカメラ」編集長などをつとめ、'89年退社後は写真評論にうちこんでいる人だ。ジャーナリストでなければ書けない、目の力、目のたしかさを感じさせる。才能豊かなカメラマンたちがこんなにもたくさん出現し、時代をうつしとっていることに感動する。本に収められた数百枚の写真を見るだけで、その多様なかたちに目がくらむような気がする。

 第6章「明治・大正・昭和三代のスポーツ写真」は、日本でどのようにスポーツ写真がとられてきたか、その歩みが、カメラそのものの進化、とともに語られていて興味深かった。

 「1964年(昭和39年)10月の東京オリンピックは二つの意味でスポーツ写真の上に一大革新をうながしたのである。一つは、撮影機材がこれまでのスピグラから一気に一眼レフ時代に突入したことであり、二つには、この五輪をきっかけにはじめてフリーのスポーツ写真家が登場してくる環境が作り出されたからであった」

 スポーツ総合誌「ナンバー」とスポーツ写真についても、岡井さんは実に好意的に考えてくれている。そして「勝敗記録の『決まり手』から内面心理の追求まで、スポーツ写真は、ますます多彩なひろがりを見せていくだろう。その一つ一つの『瞬間』は、なによりもその時代をもっとも人間的な感動の光景として語りついでいくにちがいない」と書く。スポーツ写真の可能性を信ずる人の言葉だ。

 「おわりに」の中で岡井さんは「かつて週刊誌の編集にたずさわった頃、石油ショックを体験し、編集経費の削減や省エネなどに直面したが、その経済危機のさなか、いちずな前向き志向の社会の動向にある種のブレーキがかかった。これまでの行程をふり返り、自己確認(アイデンティティ)を求めるような社会的ムードのなかで、私は『わが家のこの一枚に見る日本百年』という企画を立ち上げた。全国の読者に呼びかけ、アルバムの記念写真をはがしてキャプションを付ける公募だったが、戊辰の役に出陣するガラス板のサムライ写真や大正天皇即位の御大典、戦時中の銃後写真や各地の行事、昔のスポーツなどなど列島の隅々におよぶ実に多彩な写真群が寄せられ、一年間にわたって連載した。・・・このとき、庶民像が歴史的時間の中にいきいきと躍動しているのを実感して、その驚きと感動が私の写真を見る眼を根底から変えたように思える」

 この企画を週刊朝日誌上で見たときの驚きを、今でも忘れない。まさに「やられた!」の気持だった。私もひそかに「わが家の1枚の写真」で、庶民の昭和史が語れるのではないか、と考えていたからだ。あとで岡井さんに会ったとき、その話をした。あの企画が「写真を見る眼を根底から変えた」と聞いて、やっぱり! と何かうれしい気がした。

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