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vol.410-2(2008年7月23日発行)

岡崎 満義 /ジャーナリスト
ライバルというよき関係

 ある人間のことを考えようとするとき、私は必ずもう1人の、できれば対極的な人間を探し出して、両者を比較しながら、主たる人間についての考えを深めようとする。それもライバル、コンビ、と言われる関係が見えてくると、当の人間のことがいっそう考えやすくなる。

 「純粋天皇」を求めた三島由紀夫のことを考えるときは、天覧試合でサヨナラホームランを打って、昭和天皇を大いに喜ばせ、象徴天皇制と民主主義をうまく接ぎ木した長嶋茂雄、“エピキュリアン”イチローのことを考えるときも、“エンタテイナ”長嶋茂雄を隣において考えるのがつねだ。「徳は孤ならず、必ず隣あり」というのが、私の信念である。超一流のアスリートは、必ず「徳」をもっている。「徳」があれば、必ず「隣」がある、というのも真理である。それを応用して、人間を考える。

 野茂英雄投手が現役引退を発表した。彼が1995年にドジャース入団以来、トルネード旋風をまき起こし、のちにつづくイチローなど日本人選手のために大きく大リーグへの門を開いた功績などについては、スポーツ紙はもちろんのこと朝日新聞や毎日新聞の社説にまで取り上げられた。いくら称えても称えきれない成績であり、功績である。

 彼の引退は年齢からくるヒジの故障などが主原因のようで、ついに昔の球威がもどらなかったようだ。私は今シーズン、ピアッツァの引退もひびいたのではないか、とひそかに思っている。強打のピアッツァ捕手は、野茂投手のボールを最初に受けた選手だ。このコンビの活躍は素晴らしかった。日本にもピアッツァ・ファンがふえ、彼はその後、日本の農機具メーカーのTVCMにも出たほどだ。その後、野茂投手はたくさんの球団を渡り歩いたが、何といっても2度にわたるドジャース在籍時代が、最も印象鮮烈であろう。ピアッツァ捕手の引退が、野茂投手の引退の心理的な引き金になったのではないか。

 女子走り幅跳びの池田久美子選手は陸上の日本選手権では振るわず3位、追加の札幌大会でやっと6m70を跳んで、みごと北京五輪の切符を手にした。―昨年6m86を跳んで、次の目標は7m、と強気の目標を定めてから、逆に不振つづきだった。いろいろトレーニングを積み上げたにもかかわらず、7mは遠ざかる感じだった。ひょっとして、その間、同じ陸上競技部に属していた仲良しの女子砲丸投げ・森千夏選手が、若くして亡くなったことが、目に見えないところで心身の欠落感となってしまったのではないか、と思ったりする。

 昔、マラソンの増田明美さんに中学、高校とライバルにして仲良しだった樋口葉子さんという中距離ランナーがいた。800m、1500mは樋口さんが上、3000m以上は増田さんが勝つ、といういいライバルだった。成田高校を卒業したあと、川鉄千葉にも仲良く2人で入社し、京都の全国女子駅伝にも同じ千葉県チームで出場したりしていたが、樋口さんはわりと早く辞めてしまった。増田さんのその後の成績がもうひとつパッとしなかったのは、ライバルにして親友樋口さんを失ったことにあったのではないか、と思ったりした。

 巨人・上原浩治投手の思いもよらない不振。その苦悩を、フジテレビの女性アナウンサーのインタビューで痛々しいほど正直に語っていた。

 「ほんとに今年はシンドイね。今、必死にもがいています。このまま引退にいくか、もう少しがんばれるか、ここが正念場、ふんばりどき、今年は何か境目の年のような気がします」
  
 ライバル松坂投手が大リーグへ去って2年、何か空虚感があるのか。女性タレントとの一夜のアバンチュールが騒がれつづける、近大から同期入団した二岡智宏選手の不振とも、どこかで関係があるのか、などとつい思ったりする。

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