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vol.412-2(2008年8月6日発行)

岡崎 満義 /ジャーナリスト
ペドロイアと安馬

 スポーツの世界で彗星のように現れてくる「新人」に出会うのは、スポーツ観戦の大きな楽しみのひとつだ。

 ボストン・レッドソックスのペドロイア二塁手もその1人。たしか昨年、ア・リーグの新人王に輝いた若手だ。大男揃いのレッドソックスの中で、とりわけ小柄だが、山椒は小粒でもピリリと辛い。まことに生きがよくて、溌刺としてダイヤモンドを駆け回る姿は気持がいい。全身バネの塊だ。先日も対マリナーズ戦で、イチローの放った中前ゴロで抜けようかという火の出るような当たりを、横っとび逆シングルでつかみ、崩れた態勢のまま一塁へ投げ、間一髪アウトにした。打ちも打ったり、捕りも捕ったり、である。

 最近はトップバッターに定着しているが、コツコツ当てるというバッティングではなく、体がねじれるほど振り切っているのも魅力だ。小柄な新人、という点では巨人の坂本遊撃手もすぐに目についたが、彼よりもっと力感あふれている。

 冷蔵庫のような胸板厚い大男が、バットを軽々と振ってボールをスタンドに放り込むのはプロ野球の楽しさだが、小兵の選手が小技をからめて、なお大男に負けないバネの利いた、スピード感あふれる全身全霊のプレーは、人をひきつけてやまない。私はたちまち、ペドロイア選手のとりこになった。松坂が登板しない試合でも、ラミレスが去ったあとでも、レッドソックスの試合を見るのは、極端に言えばペドロイアを見る楽しさがあるからだ。

 ペドロイアの感じに近いプレーヤーを探していて、思いついたのは大相撲の安馬だ。次の有力な大関候補である。安馬の魅力は、小兵にもかかわらず、決して立会いに逃げないことだ。真正面からぶち当たる。すかしたり、かわしたりしない、正攻法の攻めである。スピードと技の切れ味で、大型力士と互角に相撲をとり、最後は圧倒する。安馬の相撲も見ていて気持がいい。

 プロの世界は勝ってなんぼ、の世界である。負けつづけ、成績が下がってくれば、いずれ見捨てられるきびしい世界である。それでも、勝つことがすべてでないことを、ペドロイアと安馬は教えてくれる。小兵であそこまで活躍できるのは、何千人何万人に1人の素質の持主、ということだろう。大男を育てるより、ずっとむずかしいかもしれない。それでも、いくつもの高いハードルを乗り越えて育ってきた“小兵”の戦士たちは、なんとすがすがしく、晴れやかな存在であることか。

 いまや、スポーツ界は「公平」を求めて、どの競技も「体重別」になってきている。チーム競技には、まだ小兵と大男が混在している。スポーツ選手の大型化の方向は変わらないにしても、その中に真珠のようにピカリと光る小粒プレーヤーの存在は、どんなに見る者をなぐさめ、楽しませてくれることか。私たちの気持の中には、どこかに「小よく大を制す」「柔よく剛を制す」というシーンを見たい、という願望があるのではないか。こんなことは現実の世界ではなかなかお目にかかれないが、それだけに、スポーツの世界で見てみたい気持も強い。それは人生最大のカタルシスだ。

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