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vol.426-3(2008年11月28日発行)

岡崎 満義 /ジャーナリスト
国境を越えるスポーツ指導者

 「指導者のためのスポーツジャーナル」(日本体育協会発行)2008冬号に、フェンシングコーチのオレグ・マツェイチュクさんの「スポーツから見る“日本人らしさ”―優しすぎる!従順すぎる!」が載っている。

 マツェイチュクさんは来日して5年のウクライナ人、北京五輪で太田雄貴選手をサーブルの銀メダリストに育て、一躍名が知られた。

 「(日本人について)印象深かったのは、赤信号を律儀に守るといった規律正しさ、礼儀正しさ、そして優しさです。どこにいっても“外国人”である私にどなたも親切に接して下さる態度は素晴らしいと感心しました。選手たちも非常に丁寧で、練習前に『お願いします』と挨拶する姿は見ていて気持ちのよいものです。

 だだ、ピスト(フェンシングのコート)の上まで優しすぎるのはどうでしょうか。ピストは言ってみれば戦場。嫌な奴、悪い奴にならなければ勝てない場面もあるのです。日本人の試合で目についたのは、試合中にミスしたりぶつかるとすぐ『すみません』と謝る姿。ポイントを落とすと謝り、不利な判定が出ても文句をいわずにあっさり受け入れる。ウクライナ人だったら『なんて判定だ!』と黙っていないでしょうが、日本人選手はどんな場合も攻撃的な気持ちを表に出すのが苦手で、殴ろうと思って振り上げた右手を、左手で押さえ込んでしまうように見えます」

 外国人コーチから見ると、日本の若者はスポーツマンであっても、まだまだ内弁慶で引込み思案、謙虚過ぎると目にうつるようだ。そんな気質だから、議論もしたがらない、もっとコーチと選手の間で議論をしあうべきだ、と提言している。「ちなみに銀メダリストとなった太田雄貴、彼は自分の意思をコーチにきちんとぶつけて議論のできる『日本人らしくない』選手です」と言っている。これだけ海外との交流も盛んになり、グローバル化が言われる時代になっても、日本人の気質は容易に変わらないのだな、と痛感させられる指摘だ。

 「オール読物」12月号に、スポーツライターの吉井妙子さんが「井村雅代 リスタート−日中の壁を越えて」を書いている。

 井村雅代は人も知る日本シンクロナイズドスイミングのコーチとして、立花美哉、武田美保のデュエットを育て、2001年の世界水泳で金メダルを獲り'04年のアテネ五輪では、チーム、デュエットで2つの銀メダルをもたらした。日本のシンクロを世界レベルに引き上げた最大の功労者である。

 その井村にアテネ五輪後、中国からコーチ依頼の声がかかった。私は以前、この欄で井村の中国チームコーチ就任に拍手、と書いたことがあるが、吉井さんは次のような井村の言葉を紹介している。

 「肩肘張って日中交流だとか、赤絨毯を敷いて考えるようなことじゃない。日本と中国は元を正せば文化的なつながりも深いし、同じアジア民族だし、非常に分かり合える間柄。中国のコーチに招かれたとき、一部の人たちから『国賊』といわれたけど、ただ単にイメージで中国を恐れていたんだと思う。中国にこれ以上強くなってほしくないと言う思いもあったかも知れない。しかし、中国が強くなったら、日本はそれ以上に頑張ればいい。それがスポーツというもんでしょう」

 同感だ。井村さんの強い気持ちがよく伝わってくる。それにしても、まだ『国賊』などという言葉が生きていることに、それも、こういうスポーツ交流の場に生きていることにびっくりし、ガッカリする。中国卓球には荻村伊知朗、中国女子バレーボールには大松博文の名前が残っている。井村雅代の名も中国シンクロの恩人として残るにちがいない。スポーツの指導者が国境を越えて往来することは、何よりの「友好」の姿だ。もっと盛んになってほしい、と思う。

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