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vol.410-1(2008年7月22日発行)

佐藤次郎 /スポーツライター
そのまま伝えてほしい

 オリンピックが近づくと、少しばかり憂鬱になる。もちろんオリンピックそのものが問題なのではない。なんだかんだと問題は多くても、これほど魅力的な大会はない。憂鬱の元は、テレビ放映の、それも民放各局のお祭り騒ぎだ。

 テレビの五輪放送は、回を追うごとに妙な方向へと進んできた。ひとことで言えばバラエティ化である。中継であれハイライトであれ特番であれ、その傾向に変わりはない。お笑い芸人やらアイドルやら元選手のタレントやらを集めて、オリンピック放送をバラエティ番組にしているのだ。4年に一度のスポーツの祭典を楽しもうとしている身にとって、これは憂鬱のタネ以外の何ものでもない。

 オリンピックはスポーツ大会なのだ。競技そのもの、選手のパフォーマンスそのものが主役なのである。スポーツ自体が面白いのは言うまでもないし、オリンピックはそこに、4年に一度だけ世界中からそれぞれベストの選手が集まるという特別の魅力が加わる。それが面白くないわけがない。つまり、何かをつけ加える必要などまるでないということだ。

 なのに、その素晴らしい材料をわざわざ変質させてしまっているのがいまのオリンピック番組である。ほとんど手を加えず、そのまま食べるのが最高の食材を、要らざる調理や調味料で飾り立てているようなものと言ってもいい。どうです、これでは憂鬱になるのも無理はないでしょ?

 手を加える必要がないところに細工をしようとすれば、どうしても不自然になる。わざとらしい演出。大げさな表現。いかにも型にはまったお笑いタレントたちのはしゃぎっぷり。キャスターと称する人たちの興奮の様子。どれもこれもオリンピック本来の姿を伝える役には立っていない。それどころか、スポーツそのものの魅力、面白さをそこなっていると言わねばならない。

 そんなやり方をしていれば、中身が偏るのも避けられない。無理に盛り上げようとすれば、どうしてもバランスは崩れるのだ。たいがいは日本選手、日本チームの応援一辺倒。「頑張れニッポン」「それ行けジャパン」の大合唱ばかりである。自国を応援するのは当たり前とはいえ、あまりに行き過ぎてはひいきの引き倒しにもなりかねない。そんな中で、それだけのレベルにないのにメダル候補ともてはやされ、本来の力さえ出し切れずに沈んでいった選手を、これまでどれほど見てきたことだろう。

オリンピックは世界のお祭りなのである。せっかく世界中からそれぞれに特色ある選手たちが集まってきているというのに、日本選手にしか注目しないのは、やはり偏りすぎと言わざるを得ない。さまざまな人々の、さまざまな文化に触れて視野を広げるのもオリンピックならではの意義なのだが、大騒ぎのバラエティ路線ばかりを続けていれば、そうした側面もどこかへ消し飛んでしまうのだ。

 こうした傾向はオリンピックだけではない。いまやスポーツ関連番組はどれもそんな形になりつつある。これに対しては、「スポーツになじみのない人にも興味を持ってもらうため」という説明がよく聞かれたものだが、実際のところ、そんな小細工をしなくとも、スポーツそのものの魅力をそのまま伝える努力さえすれば自然と注目は集まるはずだ。どこから見ても、オリンピック放送を空騒ぎのバラエティにする必要などないと思う。

 それでもこの傾向が進むのは、世の中全体がバラエティ化に慣らされてしまっているからだろう。政治にしろ社会にしろ事件にしろ、テレビはすべてバラエティ仕立ての時代である。もっとも、テレビだけのことではない。さまざまなメディアの発達もあって、なんでも一種のショーに仕立て上げてしまう傾向がいまの時代にはあるように思える。なんとも情けないが、その流れにはなかなか抗しがたい時代でもあるようだ。

 五輪放映の中心となるNHKの番組づくりは、いまのところスポーツ放送本来の姿をほぼ保っていると思う。とはいえ、だから他の民放はバラエティでいいのだということにはならない。もちろんそれがいいという人々もいるだろうが、本当のスポーツ好きであれば、そのほとんどはバラエティ化に辟易しているはずだ。

 オリンピックの放映に妙な飾りはいらない。おふざけもこけおどしも大げさなショーアップもいらない。競技の魅力をそのまま伝えてくれれば、それでいい。と書き連ねてみて気がついた。どうやらこれは、テレビ番組だけでなく、オリンピックそのもののあり方についても共通することのようだ。

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