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vol.415-2(2008年9月12日発行)
滝口 隆司 /毎日新聞大阪本社運動部記者
日本のプロ野球を襲う第2の波

 都市対抗野球の最優秀選手賞にあたる橋戸賞を受けた新日本石油ENEOSのエース、田沢純一投手(22)が12日、日本のプロ野球(NPB)を経験せずに米大リーグへ挑戦する意思を表明した。田沢にはすでに5球団以上が関心を示しているとされ、来季は米国でのプレーが濃厚とみられる。そして、このままなら、今後は田沢に続く選手が次から次へと出てくるだろう。NPBにはどれだけの危機感があるのだろうか。

 思い出されるのは2002年のことである。私は巨人担当の傍ら、コミッショナー事務局も回っていた。巨人の松井秀喜がシーズン終了直後にFA宣言をし、ニューヨーク・ヤンキース入りを決めた年だ。巨人だけでなく、日本の大黒柱ともいえた松井秀の米大リーグ入りは、その後の日本選手の米国流出を加速させたともいえる。そして、02年には選手の流出に関係するもう一つの動きがあった。米大リーグ機構(MLB)が明らかにした「世界ドラフト構想」 だった。

 米国、カナダ、プエルトリコに限定されたドラフト指名対象選手を世界に拡大するというものだ。背景には、米大リーグへの供給源となっているドミニカ共和国など中南米選手の契約金高騰があった。一部の金持ち球団しか手を出せなくなってきたため、これらの国もドラフト対象にすれば、カネのない球団でも選手を獲得できる。戦力均衡を図るための有効策として、いったんはMLBと選手会(MLBPA)で基本合意がなされた。しかし、細部には問題も残されているようで、今も実施には至っていない。

 日本はこの構想から除外されていた。もともとドラフト制度がある日本の選手に手を伸ばすことにMLBも遠慮したのかも知れない。この構想が発表された当時はスポーツ紙が一面で取り上げるなど、日本でも大きな騒ぎとなったものだ。しかし、MLBが日本の選手を対象外にしたことが分かると、NPBはそれが「紳士協定」だと信用し、何の手も打たなかった。

 日本選手が米大リーグに挑戦すると言えば、ここ数年はそれを歓迎する風潮が続いてきた。松井秀の時は賛否両論あったが、それ以降は松坂大輔をはじめ、日本の一流選手が米国へ流出することに何の疑問も持たなくなった。だが、04年の球団再編騒動や巨人戦の視聴率低迷など、さまざまなファン離れ現象や球団の経営問題が起きている。日本ハムやロッテ、楽天など地方球団は新たなファン層を開拓しようと頑張っている。とはいえ、日本のプロ球界が上げ潮に乗っているとは言い難い。何よりも選手たちの意識が大きく変わった。米国でプレーすることに大きな価値観を持つ。それがアマチュア選手にも波及している。

 日本のアマ野球の現場にメジャーのスカウトがよく顔を出すようになった。日本在住スカウトも多い。そして、張りめぐらされた網から、ついに選手が引き揚げられていく時代がやってきたのだ。一流選手がFAを機に海を渡っていったのが第1の波だとすれば、今回は日本球界に第2波が到来したといえるのではないか。

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