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vol.420-2(2008年10月17日発行)
滝口 隆司 /毎日新聞運動部記者
企業スポーツは「堤防」を築く時

 金融危機をきっかけに株価、為替相場の乱高下が続いている。主要国が金融機関への公的資金投入に踏み切り、いったんは株価が底を打ったかに見えたものの再び暴落。景気後退への強い懸念が世界経済を覆っている。

 あれは経済界のことだから、と知らぬ顔はできない。この動きはいずれ日本企業の経営に波及し、スポーツ界にもじわじわと影響を与えるかも知れない。そんな危機感を企業スポーツの関係者は持っているだろうか。

 バブル経済崩壊によって始まった90年代からの企業スポーツの相次ぐ休廃部は、日本スポーツの土台を根底から揺るがした。多くの競技者が活動の場を失い、その受け皿を探した。独自にスポンサーを集める個人競技の選手が現れ、団体競技のチームはクラブ化への道を模索した。新日鉄のように、企業がチームを「所有」する形式から「支援」する形式に変えたところもある。

 野球の独立リーグやバスケットのbjリーグなど新しい形態のリーグも発足。異なる競技同士で協力しようと、日本トップリーグ連携機構という組織も出来た。

 いろんなスタイルの企業スポーツ(一部プロ)がある。最近ではこんな話も聞いた。

 複数の企業によって組織される「フェズント岩手」という社会人野球チームが、創部3年目ながら、日本選手権の東北2次予選で初の4強入りを果たした。

 チームはNPO法人「岩手の野球を発展・躍進させる会」によって06年に発足し、岩手県内の10以上の企業が支援を名乗り出て選手を雇用するようになったという。選手たちは会社内で特別待遇を受けているわけではなく、他の社員と同様、昼間はしっかりと働き、夜に練習を行う。

 日本野球連盟は03年からこうした複合型企業チームがクラブチームではなく、「会社登録」することを認め、ユニホームに企業のワッペンを付けることも可能になった。

 社会人ラグビーのワールドは、来年度から部員を全員正社員とすることを決定した。ラグビーに専念する契約選手は一切なし、ということだから、チーム力の低下は免れない。もちろん会社経営の事情もあるだろう。しかし、全員が正社員となることで、職場との一体感を図り、社員の士気高揚も期待できる。企業スポーツの原点に帰ろうというのがワールドの考えだ。

 90年代後半以降、企業スポーツは多様化の道を探った。スポーツ人たちがそれぞれの競技環境を守ろうと必死に踏ん張った結果でもある。そうして休廃部の動きがやっと沈静化し、土台が固まり始めたところに再び不況の波が襲ってきそうな気配だ。

 企業スポーツ関係者は今、大波が押し寄せてきた時に向けて備えているか。突然、会社幹部に「きょうで廃部が決まった」と告げられ、選手たちが涙にくれる。そんな話はもう聞きたくない。この10年余、苦難を味わい続けた企業スポーツには数多くの教訓が残っている。彼らが取り組んだ創意工夫の知恵を結集し、どんな波にも揺るがない強固な「堤防」を築く時だ。

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