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vol.421-2(2008年10月24日発行)
滝口 隆司 /毎日新聞運動部記者
プロ化一直線の国際柔道界

 国際柔道連盟(IJF)がバンコクで行った理事会・総会で世界ランキング制度の導入を決定した。主要国際大会の成績にそれぞれポイントがつき、順位が決まっていく。そして、ランキングがそのまま五輪出場権獲得につながる。早速、来年1月からスタートという。

 突然浮上した話ではない。2000年シドニー五輪の直後にも同じようにランキングを付ける世界ツアー構想が欧州連盟から持ち上がったことがある。

 当時は決定に至らず、話は立ち消えになったかのようだった。しかし、昨年9月、柔道のビジネス的発展を強力に推し進めるルーマニア生まれのマリアス・ビゼール氏(オーストリア)がIJF会長に就任。ついに構想は現実のものとなった。

 IJF総会のあったバンコクからの報道によれば、対象大会を世界選手権、ランキング上位者によるマスターズ、グランドスラム4大会、グランプリ5大会、ワールドカップという順で格付けし、大会の格に応じて得点に差を付ける。4年間のうち高得点を挙げた上位4大会の合計点が算出され、各階級で男子は22人、女子は14人に五輪出場権が与えられる。各階級とも1カ国・地域につき原則1代表が選ばれ、複数選手が上位にランキングされた国は、その国の裁量で代表を決める。逆に上位ランキングに入らなかった国には大陸別の枠を設けるという。それが概要だ。

 今後、柔道界にはどんな変化が起きるのか。選手はかなりの体力的負担をしいられながら、世界を転戦することになる。ケガで欠場すれば、ポイントに直接影響する。ベテラン選手も休んでいる暇はなく、休養が一線からの引退に直結するかも知れない。国際大会のスケジュールが過密になり、国内大会の出場は軽視される。しかも五輪出場権は国内の代表選考会でなく、国際大会の成績で決まる。国内大会の地盤沈下が懸念されるところだ。

 そう考えていくと、選手は個人で世界を回るテニスのトッププロのように、国内にいることは少なくなる。

 企業や大学の柔道部も一流選手抜きになり、活力が失われるだろう。日本の代表選手はいずれ企業や大学に所属する必要性がなくなり、マネジメント会社やスポンサー企業と契約を結んで世界ツアーに参戦する時代が来るに違いない。企業側も柔道部を抱えるのではなく、トップ選手の海外転戦をスポンサーという形で金銭支援する形に変容していくことが予想される。そうなれば、プロ柔道家が登場してくるのは時間の問題だ。

 プロといえば、総合格闘技の世界を思い起こすが、柔道の国際大会も興行的度合いを強めていく可能性は高く、新設のマスターズは賞金大会とも聞く。世界のトップ選手を集めて各国を「巡業」する。国際柔道界は猛然とビジネス化の道を突き進んでいるようだ。

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