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vol.428-2(2008年12月12日発行)
滝口 隆司 /毎日新聞運動部記者
市長辞任にまで発展した「市岐商」問題

 高校野球で今夏の甲子園にも出場した岐阜市の市立岐阜商業を、学校法人・立命館に移管する計画が岐阜市議会によって不採択となった。推進派の市長が辞意を表明するなど、地元では大きな騒ぎとなっている様子だ。公立学校が廃止され、私立学校に変わっていくことに違和感を覚えない人はいないだろう。しかし、一方でそうした動きに期待する声が強いのも事実だ。

 細江茂光市長は「100年に一度のチャンス」という表現を使い、立命館への移管を望んでいたという。市民も賛成派、反対派に分かれ、市議会には「市立岐阜商高の当面の存続を求める請願」と「立命館誘致を求める請願」の2つが提出されていた。

 結局、市議会は「市岐商存続」を採択し、「立命館誘致」の不採択を決めた。が、細江市長は「民意を問いたい」として辞意を表明。来年1月の市長選に再び立候補する考えを明らかにした。

 高校スポーツを見ていると、地方には公立ながらトップクラスの実力を持つ学校が数多くある。普通高校だけでなく、商業高校、工業高校、農業高校・・・。特別な強化費や豪華な施設があるわけではない。しかし、長い歴史と伝統に支えられながら、学校が地域に根付き、OB会の協力体制もしっかりしている。そして、情熱を持った指導者が選手を鍛え上げていく。市岐商の野球部は夏4回の甲子園出場を誇り、今夏は甲子園で初勝利を挙げた。

 ところが、そうした歴史や実績はほとんど考慮されていないようだ。岐阜市内には県立岐阜商業もあり、2つも商業高校は必要ないという意見も根強かった。そして、何よりも市の財政難。市岐商の年間運営費は4億円程度といわれ、それが市の台所事情を苦しくさせていた。さらに少子化による生徒数の減少。そこで学校でさえも行政のリストラ対象になってきたのだ。まるで政府が「私のしごと館」(京都府)など不採算の施設を廃止し、民間企業に売却するのと同じ図式のように見える。

 立命館は校舎の全面建て替えや中高一貫校の設立を提案し、その代わりに建物や土地の無償譲渡や貸与を求めている。もし移管が成立すれば、学校は「立命館岐阜」とでも変わり、生徒は立命館大への進学が保証されるだろう。施設も改善され、人気校になって生徒も集まってくる。野球部など学校のPRに役立つ部活動には潤沢な資金が投入されるに違いない。

 こうした例が全国的に広まっていけば、公立学校の買収が進み、公私間にさらなる「教育格差」が生まれるだろう。公立学校の教育内容は、いわばサービスの質という点で私学に追い付けなくなるのではないか。運動部活動の現場でも競技環境の違いから「格差」が拡大していき、高校スポーツの土台を揺るがすかも知れない。

 不景気の中、学費の高い私学に通えない生徒も多いだろう。しかし、安価に通える公立学校が存廃に揺れている。来年1月の市長選で岐阜市民はどんな選択をするのだろうか。自分たちの税金で建設、運営されてきた学校を残すか、それとも「民間移管」で活性化された姿に期待するか。

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