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vol.431-1(2009年1月8日発行)

岡崎 満義 /ジャーナリスト
「西武アイスホッケー廃部」を考える

 今、新聞連載ものでもっとも愛読しているのは、辻井喬・堤清二「叙情と闘争」(読売新聞朝刊毎週土曜日掲載)である。'08年1月から始まった連載は今もつづいている。昨夏、誰かのエッセイを読んでいたら、その中に、今一番面白い読み物は「叙情と闘争」とあって、私はすぐ近くの図書館へ行って、バックナンバーで第1回目から読んでみた。たしかに面白い自伝である。詩人・作家の辻井喬と、財界人・経営者・西武セゾンのリーダー、企業と文化の交差点に立った人・堤清二・・・どんな風に説明してもよいが、これだけ政治・経済・文化・文学、芸能・・・の多様なジャンルに広くネットワークを張った人はざらにはない。その人の自伝だから、日本のみならず、欧米、中国、ロシア(ソ連)、・・・と世界規模の時空に残した足跡は、けんらん豪華、まばゆいばかりの著名人が登場して、溜め息をつくばかりだ。今、経済経営の側面を削り落として、詩人・作家辻井喬として充実して生きられる人生を手に入れた、という喜びが行間から感じちれる。

 そんな気分で連載を読んでいた昨年末、西武アイスホッケーが、今季限りで廃部する、というニュースが伝えられた。これにはびっくりした。日本アイスホッケーの大黒柱は西武である。日本リーグ、今のアジア・リーグを通じて、西武あってこその日本のアイスホッケーであり、アジアのアイスホッケーだと思っていた。引張ってきたのは、もちろん西武コクドグループのリーダー堤義明さんだ。堤清二さんの異母弟である。税金を払わないことで有名だった西武の経営手法が通用しなくなって、堤義明さんは石もて追われた。冬季スポーツをこよなく愛し、長野オリンピック誘致の立役者だった堤さんが追放されて、西武の新経営陣にはアイスホッケーに対する思い入れなど、まったくなかったのだろう。経営の健全化のために、という大義名分の下に、アイスホッケーはバッサリ切り捨てられたというふうに見える。西武のアイスホッケーも捨てられるのではないか、とひそかに不安に思っていたが、やっぱりそうだった。

 堤さんが西武の経営から追われても、ポケットマネーでアイスホッケーを存続させられないものだろうか。堤ファンドにファンの会費もプラスして、アイスホッケー部を維持していけないだろうか、と夢のようなことを考えたりする。

 私は昭和56年夏、ハワイ・マウイ島の西武経営のマケナ・ゴルフ場で、堤義明さんに長時間インタビューをしたことがある。ゴルフ場近くにリゾートホテルを建てる目的で、現地視察に行った堤さんが、マウイ島に夏休みもかねているから、そこでならインタビューを受ける、というので、カメラマンと出かけた。テーマは買収したばかりの西武ライオンズの将来についてだったから、このときはアイスホッケーの話はしなかった。

 マケナ・ゴルフ場の支配人は、元コクドのアイスホッケー選手のTさんだった。氷上の格闘技で鍛えた大柄なTさんは、堤さんがやってくるというので、ピリピリしていた。ゴルフクラブのテーブルの上の調味料のビンのひとつひとつの中身の量、ビンの置き方などまで、細かく点検していた姿が忘れられない。

 堤さんは、当時の有吉ハワイ州知事とゴルフをしたとき、ティーショットがOBとなってボールが海へ消えるや、間髪を入れず、秘書が駆けよってティーアップする姿を見て、堤さんは単なる西武の社長・リーダーではなく、超社長的存在、帝王として君臨している、と思った。これがはたして長く続くものだろうか、と思った。しかし、そんなキャラクターだからこそ、アイスホッケーに並々ならぬ情熱を注ぎ、西武のみならず日本のアイスホッケーを育ててこれたのだ、とも思うのだ。そんなやり方はもはや通用しない、といわれる。そうだろう。時代遅れとも言われるだろう。しかし、と思う。会社的・社会的追放を受けた人間に、もっとも情熱を注いだもの、堤さんの場合はアイスホッケーに、なおつながりをもつことを許すことはできないものだろうか。堤さんのアイスホッケーに注ぐ情熱の量は、多分、誰もそれをしのぐことはできないだろう。企業からはなれても、スポーツとのつながりを残すことによって、社会復帰のひとつのかたちを見たい、という気持もある。

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