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vol.437-1(2009年2月17日発行)

岡崎 満義 /ジャーナリスト
社会復帰の道はないのか

 大麻は他の薬物、筋肉増強剤ステロイドなどと違って、競技力向上に結びつく可能性は低い、とされ、長い間取り扱いはあいまいな形になっていた。2000年のシドニー五輪からIOC(国際オリンピック委員会)は大麻禁止を決めた。体力競技力向上につながらなくても、社会的に問題視されている薬物の一種として、スポーツ界から追放することになった。

 最近起こった3件の大麻事件―大相撲の若麒麟(25)(その前に露鵬、白露山、若の鵬の3力士)、北京五輪男子競泳で8個の金メダルをものにした米マイケル・フェルプス(23)、そして東芝ラグビー部のトンガ出身のWTB(ウイング・スリークォーター・バック)クリスチャン・ロアマヌ(22)。オランダなどの国では、社会的に容認されていることもあってか、大麻は世界中に広がり、社会の奥深く浸透しているようだ。

 3人に対する処罰は―若麒麟が「解雇」(退職金に相当する養老金は自主返上)、尾車親方の2階級降級、フェルプスは「大会出場停止3ヶ月、その間の強化費支給停止」、ロアマヌは「退部」、東芝ラグビー部瀬川監督の3月末までの謹慎、担当役員の3月末まで10%報酬返上、である。

 フェルプスの処罰が格段に軽いのは、国民的英雄に対するおもんばかり、温情というものか。それにくらべれば、若麒麟とロアマヌの処分はきびしすぎるように思う。薬物問題に関しては、アメリカン(グローバル)・スタンダードより、ジャパン・スタンダードの方がはるかにきびしいのは、日本人的潔癖さからくるものだろうか。

 うさん臭いヤツは一刻も早く組織の中からつまみ出して、薬物の蔓延・感染を防ごう、という、組織大事のやり方もわからないではないが、もう少し組織浄化以外のことにも目を配れないものか。敗者復活があってもいいのではないか。時太山をしごきにしごいて殺してしまった時津風部屋の暴力事件とは、大麻事件は質が違う。若麒麟の処罰は、彼の社会復帰の道を閉ざすものであってはならないと思う。

 武蔵川理事長は「除名を求める声もあった。しかし本人は25歳と若く、第2の人生を含めて考えれば除名はかわいそうではないかとなった」と、温情を示したことを主張している。しかし、相撲界から追放したことには違いない。フェルプスのコーチのボブ・バウマン氏が「今回の体験を反省し、学んだことを生かすことで、選手としても、人間としても一回り大きくなる。そのためには、どんなサポートもしたい」という発言とは、かなりひらきがある。

 相撲界、スポーツ界にも、事前の教育システムと、事後のサポートシステムを作る時期がきているのではないか。上手にサポートして、職場復帰、社会復帰をはかる仕組みを考えていくときだ。若麒麟やロアマヌなど若い人に対して、処罰と同時に何ヶ月か社会奉仕を義務づける。隣近所の道路清掃を1年間、ということでもいいではないか。その間に社会教育もほどこして、一人前の社会人になるように手助けする委員会(第三者をまじえた)のようなものが作れないだろうか。

 筋肉増強剤や覚醒剤を使用した場合はどうか、と問われても、それは分からない、というしかない。少なくとも大麻の場合は、社会奉仕という道筋で、社会復帰をかなえる方法はあるのではないだろうか。

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