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vol.438-1(2009年2月26日発行)

岡崎 満義 /ジャーナリスト
野茂英雄さんのマスコミ不信

 2月20日付日刊スポーツの野茂英雄インタビューが面白かった。2面を使っての長いインタビューで、WBCとオリンピックの野球がメインテーマだった。野茂さんはアマチュア時代、1988年のソウル五輪に出場して、銀メダルを取っている。

 五輪野球について聞かれて「去年、オリンピックをテレビでよく見ていた。民放をつけていると金だ、負けた、メダル取った、また負けたというのがメインになっている中で、たまたまNHKを見ていたら、ミスチルの『GIFT』って曲が流れる。『一番きれいな色ってなんだろう? 一番光っているものってなんだろう?』って。なんか、そう言われたら『ホンマは勝ち負けなんてどうでもいいんだけどなあ』って思った。もともと、五輪のマークって五色の輪が重なり合っている。・・・いろんな人種、いろんなカラーの人がいて、それが一緒になって、スポーツで戦うのがオリンピック。その中でその選手の良さが出たり、その国の良さが出たりする。そういうことが大事なんじゃないですか。だから、本当なら、僕は五輪はプロが出なくていいんじゃないかなあと思ったですね。アマチュアでいいです」と、語っている。まさに、その言やよし、である。金メダル以外はいらない、と吠えた星野仙一監督に拳々服膺(けんけんふくよう)してもらいたいまっとうな言葉である。さすが、世界を知ったメジャーリーガーの言葉だと思った。

 実はこのインタビューには、もっと面白いことがあった。インタビュアーの南沢哲也記者に「今季は日本のドラフト指名を受けるのを拒否して、社会人野球から田沢純一投手(22)が直接メジャーに臨んでいる」「(これに対して日本野球機構(NPB)実行委員会で)『日本のドラフト指名を拒否した選手が外国のプロチームでプレーして日本に戻ってきた場合は、社会人から行ったケースは2年、高校生から行ったケースは3年契約できない』となった。どう思いますか」と聞かれて、野茂さんは憤然としたように答えている。

 「それはメディアとしてはどう思っているんですか? 僕の答えは決まっています。けれど、メデアィアとしての意見はどうなんですか?」「(無意味なルールだと思うならば)メディアがもっと主張するべきじゃないですか。ニュースを流すのだけがメディアではないんじゃないですか。ニュースだけならインターネットでも読めますし。こういうことを誰かに言わせるだけじゃだめじゃないですか。本当は記者も一人一人の意見を持っているはずなんだけど、問題点は人に聞いて書く。あそこの新聞社はこんなカラーだ、というのは一応出ますけれど、それを言っているのは選手だったり、影響力のある人だったり・・・。アマチュアから行く選手というのは世間的には立場が弱い。それを選手がこういった大人のしょうもないルールに縛られるということを許していることになる。本当許せないですけど、それを指摘するのに僕の言葉を借りなくても、いいんじゃないかとも思いますよ。きちんとメディアが書けば、誰が見ても(このルールは)間違っている」

 野茂さんはメディアに対する根本的な不満、疑問をじかにぶつけている。客観中立報道を取材の大前提にしてきた今のジャーナリズムに対して、野茂さんは大きな不信をもっているのである。これはプロ野球記者だけのことではなく、新聞・報道・テレビ・・・など、現今のメディアに対する挑戦状とも思える発言である。

 1995年、ドジャースで1勝目をあげたとき、私は江夏豊さんと2人で、ロサンゼルスのホテルにいる野茂さんとテレビ電話のインタビューをしたことがある。「野茂さんのマスコミ不信の原因は何ですか」と。理由のひとつが「マスコミの勉強不足」だった。

 「ぼくの試合を1試合でもていねいに見てくれていたら、絶対にでないような幼稚というか、ハシにもボウにもかからないような質問をしてくるんです。しかも、来る来る人がみんな同じ質問なんです。うんざりです」

 野茂さんのメディア不信は長く、根深い。今もメディアのあり方を、きびしく問いただしているのである。

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