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vol.465-1(2009年10月13日発行)

佐藤次郎 /スポーツライター

守るべきものは何か

 だいぶ日にちがたってしまったが、これはぜひとも書いておきたい。大相撲の横綱朝青龍のガッツポーズ問題である。

 まず自分なりの結論を言っておこう。土俵の上のガッツポーズやバンザイはいっさいすべきでない。相撲が相撲でなくなってしまうことにもつながりかねないからだ。

 どの競技、どのスポーツにも守るべきもの、忘れてはならない大事なものがあるはずだ。ルールやマナーはもちろんだが、それだけではない。そこに一貫して流れているものとでも言えばいいだろうか。野球を野球たらしめているもの、ラグビーをラグビーたらしめているもの、レスリングをレスリングたらしめているもの―。ややあいまいな言い方になってしまうが、そうしたものがどのスポーツにもあるのは、熱心なファンならすぐにわかることだろう。

 では大相撲はどうか。いまさら言うまでもないが、これはプロスポーツであると同時に、長い歴史が培ってきた伝統文化であり、日本古来の神事の流れをくむものだともされている。伝統のそれぞれ、所作のひとつひとつにも意味がこめられている。そうしたものすべてが相撲を形づくっているのであって、できるだけそれを守っていくのは当然のことだ。

 もちろん、どんな世界でも時代によって変わっていくだろうし、何が何でも古来の慣習やしきたりを墨守する必要はない。とはいえ、伝統の中核となっているもの、その魅力を形づくっている部分はしっかり守ってほしい。というのも、それがつまり、相撲を相撲たらしめているものだからだ。

 礼を尽くしつつ静かに仕切りを重ね、その場の熱気と緊張が最大限に高まったところで激しい勝負が繰り広げられ、だが、終わればまた礼を尽くして静かに下がっていく。土俵上の取組についていえば、それが相撲というものであり、その魅力だ。静と動。闘と礼。だからこそ緊迫の勝負がいっそう際立つ。土俵の上の取組だけでなく、そこに古くから流れてきた空気や味わいも感じることができる。だからこそ大相撲は人々に愛され、これだけ長く続いてきた。

 それが消えたらどうなるか。まるでけんかのような目つきでにらみあい、勝負が終わればその場で派手なガッツポーズを繰り出す。それでは相撲ならではの味わいは消えてしまうだろう。当然ながら、これはガッツポーズそのものの是非について論じているのではない。相撲という場にはふさわしくないもので、相撲ならではの魅力や味わいを保っていくためには、あってはならないことだと言っているのだ。

 今回の件では、「感極まってガッツポーズをするのに何の問題もない」という声も強い。「あってはならない」という意見より、「かまわない」の声の方が多いのではないか。だが、先に書いたように、これはガッツポーズの問題ではないのだ。自然に飛び出すガッツポーズは場を大いに盛り上げるし、感動の波を生むこともある。要は、ふさわしい場所とふさわしくない場所があるというだけなのだ。

 そして、相撲の土俵はそれにふさわしくないし、似合いもしない。そんなことばかりが目立つようになれば、相撲が相撲でなくなる。力士たちが一番よくわかっているに違いない。

 ひとつ気になるのは、「ガッツポーズ、ちっともかまわない」の考え方が、ともすれば「強ければいい」「勝てばそれでいい」という考え方にもつながっているように思えることだ。

 たとえば、横綱朝青龍には、あるべきマナーを逸脱していると感じさせる面が頻繁に見られる。不必要なだめ押し(それはけがにもつながる)や、相手をにらみつけて威嚇することなどだ。土俵外でも、横綱としてふさわしくない行動が多いとは、しばしば指摘されているところである。いくら強くても、いくら勝ち続けても、競技者として、また上に立つ者として問題のある振る舞いが目立つようでは、勝利の感動や抜きんでた力の輝きも十分には伝わらない。すべてを含んでのスポーツであり、そのすべてを受け止めてこそのスポーツ観戦ではないか。

 スポーツの感動は勝負の結果だけにあるのではない。個性の強さや派手な振る舞いばかりが魅力なわけでもない。「強ければいい」とする風潮は、スポーツのよさをどんどん消していくような気がする。

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