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vol.435-2(2008年2月6日発行)
滝口 隆司 /毎日新聞運動部記者
「スポーツ人教育」を改めて問いたい

  大相撲に続き、ラグビーでも大麻疑惑が浮上した。トップリーグを1位で通過し、プレーオフ「マイクロソフトカップ」の決勝に残っている東芝の中心選手、クリスチャン・ロアマヌ(トンガ出身)がドーピング検査に引っかかり、尿検体から大麻摂取の疑いがあるカンナビノイドという化学物質が検出された。ロアマヌは「心当たりはない」と否定し、日本アンチ・ドーピング機構(JADA)に再検査を依頼したというが、1回目のA検体と再検査のB検体の結果が異なる例はほとんどなく、ロアマヌが資格停止処分となる状況は避けられそうにない。

 東芝では外国人選手の相次ぐ不祥事である。1月初めには同じくトンガ人のヴィヴィリ・イオンギという選手がタクシーに乗車中、現金入りの運転手のかばんを盗んだとして窃盗容疑で逮捕された。東芝はイオンギを事実上の解雇といえる退部処分とし、瀬川智広監督の今季終了までの謹慎と青木利弘ラグビー部長の辞任も発表した。そうして本人や関係者が責任を取ったばかりだった。

 ロアマヌのドーピング検査はそれから数日しか経過していない1月12日の試合後のことだ。東芝ではロアマヌの資格停止処分が確定すれば、日本選手権の出場をチームとして辞退すると発表している。それだけ事態を重くみているのだ。もはや外国人の不祥事というだけで片づけるわけにはいかない。

 大相撲・若麒麟の大麻使用で明らかになったように、薬物汚染は外国人の間だけでなく、日本人社会の水面下でも広がり、それがスポーツ界にも及んでいる。ラグビー界でいえば、一昨年11月に強豪・関東学院大のラグビー部員が大麻所持や使用で逮捕された一件はその象徴的事件でもある。

 スポーツ選手がなぜそのような犯罪と接点を持つようになるのか。その背後にどんな人間関係があるのか。まだ多くは見えてこない。しかし、子どもに諭すように、「大麻を吸ってはいけません」と指導して済むものではない。犯罪行為に関与しているのは社会人や大学生なのだ。

 自分に出来ることはグラウンドで活躍することしかないと信じ、勝って注目されることが自分の存在価値だと考える競技者は多い。スポーツ界にはびこる勝利至上主義や商業主義の価値観は、競技者の意識をそのように単純化してしまい、彼らの思考を「グラウンドの中」だけに閉じこめてしまったのだろう。

 競技団体やチーム関係者は、今こそスポーツ選手の持つ社会的役割や責務を教え、順法精神や規範意識の重要性を説いていかなければならない。そういう意味での「スポーツ人教育」が改めて必要ではないか。

 世界を覆う経済危機でスポーツ界は再び厳しい時代を迎えている。企業の支援を得ようとスポーツの社会的意義を強調しても、肝心のスポーツ人に社会的規範が欠如しているのでは見放されてしまうに違いない。スポーツは本当に社会に不可欠な存在か。今、それが問われているのだ。

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